たしかに一番楽しみにしているお祭りなら、楽しくなってしまって収拾がつかなくなることもあるかもしれない。

というか、最初から抑止役が配員されている時点で、そうなる未来は確定しているんだろう。


「でも、節分って鬼が悪役の行事だよね? なのに楽しみなの?」

「俺らは別物だからそこは割り切ってる」


ああなるほど、と深く頷いた。

以前授業で習ったけれど節分の行事は厄除け、「鬼は外」という言葉の本来の意味は「邪気祓い」だ。

わかりやすいようにそういう怖いものを「鬼」と表現しているけど、鬼市くんたち八瀬童子や酒呑童子、茨木童子のような頭に角があって力の強い妖としての鬼ではない。


「妖が主役になれる行事ってあんま無いからさ。もう半年前から鬼役の練習してるんだわ」

「そんなに前から? ふふ」


そんなに張り切ってるなんて、なんかちょっと可愛い。

くふくふと笑えば鬼市くんの冷静な表情が崩れた。優しげに目尻を口角を上げる。

思わぬ微笑みにどきりと心臓がはねた。また急いで目を伏せて、いそいそと御守りを整理する振りをした。


「気にならないの」

「え、え?」


思わぬ質問に手元が滑った。触っていた交通守りの束が他の御守りの上に散らばる。


「俺の発言の意味、気にならないの」

「あ、えっと……」


まさか鬼市くんの方からその話題に触れてくるとは思わなくて、退路を絶たれたような気持ちになった。

御守りの配置を戻しながら熱くなる頬を隠すように一層俯いて「気になります」ときゅっと唇をすぼめる。