「何か考えてるなって思ってたから黙ってたけど、表情ころころ変わって面白かったから声掛けた」
え、と頬に手を当てる。
「そんなに面白い顔してた?」
「いや、可愛い顔してた」
かわ……っ。
その一言に今朝のやり取りが脳裏を駆け巡りカァーッと耳が熱くなる。
何を返せばいいのか分からなくて黙って俯く。鬼市くんの視線をおでこの辺りにじんじんと感じる。
な……何か喋って欲しい。
そっと視線をあげると鬼市くんと目が合った。相変わらず冷静な顔でじっとこちらを見つめている。
初めて会った時も感じたけれど、鬼市くんは話しかけられたちゃんと答えるけれど基本は口数が少ないタイプらしい。
そんな性格だからか沈黙もさほど気にならないみたいだ。
今ならさっきの「気になる子」発言について尋ねられるかとも思ったけれど、自分から聞くには勇気が足りな過ぎる。
「えっと……鬼市くんはまだ着替えなくて平気なの? あと1時間くらいで豆撒きの神事始まるよ」
結局その話題には触れずに、大して乱れていない御守りの陳列台を整える振りをして尋ねた。
「八瀬童子一族の中では頭領の次に俺が力が強いから、今日は抑止役」
「抑止役?」
打ち合わせでは聞いていない役に思わず聞き返した。
ああ、と頷いた鬼市くん。
「節分祭の鬼役って鬼の妖にとっちゃ一年で一番楽しい日だからさ。みんな張りきってんの。そんで収拾がつかなくなった時に止めに入るのが俺」
「なる、ほど……?」