呆然と固まっていると、不機嫌な顔を露骨に出した恵衣くんが「ぼうっとする暇ないだろ」と私を睨んだ。

慌てて任されていた仕事に手を伸ばす。


「あれ、巫寿顔赤いけどどったのー?」


通りかかった慶賀くんに指摘されてびくりと肩が跳ねる。


「だ、大丈夫。何でもないよ」

「そ? そういやさっき鬼市と何話して────」

「何でもないよ……!」


堪らず声を被せれば慶賀くんは驚いたように「お、おお?」と頷く。怪訝な顔で私を見たあと、すぐに興味をなくしたのか泰紀くんへ話しかけに行った。

なんというか、照れくさいし気まずいし、ひたすら恥ずかしい。

これまで恋バナをする機会は何度もあったけれど、恵理ちゃんの相談に乗ったり人の恋愛を噂したりする程度。自分も話題が上がったことはなかった。

お兄ちゃんと二人暮らしだったから家事を手伝ったり受験勉強で忙しかったのもある。


こういう時って、普通みんなどうするんだろう。でも鬼市くんは「気になる子」って言っていただけだし、言葉通りただ気になる子なのかもしれない。

自意識過剰、なんだろうか。

でも、そうなるとむしろどういう意味で気になるのか、余計に私が気になる。