「じゃあ何、気になる子に話しかけて二人きりになるタイミング作るのに、お前の許可がいる訳?」
「だから周りをよく見てから────は?」
「え?」
恵衣くんと私の声が重なった。
相変わらず落ち着いた表情の鬼市くんと目が合った。目が合うなり僅かに目尻を下げて微笑んだ鬼市くん。
え、待って今────気になる子って言った?
「まぁいいや。また後で声かける」
そう言って来た時と同じように小さく手を挙げた鬼市くん。
入口に置いていた衣装ケースを両肩に三箱ずつ担ぐとせっせと階段を昇って二階の会議室へ上がって行った。
ぽかんと口を開けてその背中を見送る。
え……え? 気になる子ってつまりその、そういうことだよね?
頬が熱くなるのと同時に浮かぶのが「なんで私?」という疑問だった。
好意を持ってもらえるのは何だか恥ずかしいけれど凄く嬉しい。でも鬼市くんと会ったのは以前彼が打ち合わせで社へやって来たあの一日だけだ。
目が合って笑いかけられた事は何度かあったけれど、大した会話をした覚えはない。自分の容姿が人を魅了するようなレベルでないのは自分が一番分かっている。
だとすると余計に「何で?」という疑問が強くなる。