「自分の持ち場の仕事すらまだ終わってないくせに、人を手伝える余裕があるのか」


ごもっともな言葉に返す言葉もない。大きなため息を疲れて思わず唇をとがらせる。

別に少しだけ持ち場を離れて少しの間だけ手伝おうとしただけなのに、そんな態度を取らなくても。


「なんだよその顔。間違ったことは何一つ言ってない」

「それはそうなんだけど……少し手伝おうとしただけだよ」

「そういうのは自分の事が出来るようになってから言え」


正論だ。ぐうの音も出ない。

恵衣くんは今度は鬼市くんを見た。鬼市くんの方が背が高いので少し見上げる体勢になっている。


「お前も鬼の血筋なら衣装箱くらい自分で運べるだろ。そもそも自分たちの荷物は自分たちで何とかしろ」


自分にも人にも厳しい恵衣くんだ。物申すのは身内も他人も関係ないらしい。


「俺が誰に頼もうとお前に何か言われる筋合いもないと思うけど」

「神職は祭りの用意で忙しいんだ。見て分かるだろ。せめて周りの者に許可を取れ」


なんでだろう。

鬼市くんは表情を変えずに冷静に話しているし、恵衣くんもいつもと同じ険しい顔で淡々と話しているのに、二人の間にバチバチと火花が散っているように見える。