会議室へ入ると橙色の着物と赤い帯が桐箱の中に用意されていた。
椅子に座って何かを必死に磨いていた禰宜が顔を上げた。
「ああ巫寿さんちょうど良かった! この着物合わせてみてください、明日の福神の衣装です。問題なければそのままで、合わなければ千江さんを捕まえて直してもらってください。あとお多福の面磨いて貰えますか? 僕もう次の準備に行かなければならなくて。それでは」
本当に時間が無いのか早口でそれだけ言うと、私に手ぬぐいとお面を押し付けて大慌てで会議室を飛び出して行った。
受け取ったお面を見た。
瓢箪のような輪郭に白塗りの顔、線のように細い笑った垂れ目にふっくらした朱色の頬。世間一般で「お多福」と呼ばれている木彫りの面だ。
私は明日、志らくさんとこの面を付けて「福神」の役をするように仰せつかっている。
特になにかする訳ではないらしく、豆まきが始まって鬼が一頻り暴れ怯えた子供たちによって社頭が阿鼻叫喚の図になった後で登場する役なのだとか。
福は内、ということだろう。
毎年泣きじゃくった子供たちが鬼から逃げようと我先にタックルする勢いで抱きついて来るらしく、その大役を任されたその日に志らくさんから「今のうちに腹括っときや。絶対腰いわすから」と据わった目で忠告された。