上京は帰ろうと思えば帰れる、でも審神者は違う。
一度家を出てかむくらの社へ立ち入れば、もう二度と外へ出ることも親しかった人達と連絡を取ることも出来ない。両親や兄弟の顔を見ることもかなわない。
自分で調べた程度の知識しかないけれど審神者は全神職の頂点に立ち、八百万の神達のさらにその上に立つ最高神・撞賢木厳之御魂天疎向津媛命の言葉を私たちに届けるお役目を担う。
この国を祝福し、全国にいる神職を見守り、妖たちを慈しみ、行く末を案じ、未来を見通し、終わりを見届ける。
審神者が不在の期間は度々あったらしいけれどその度に災害があったり悲惨な事件が起きたり、大きな災いが起きてしまうほどその存在は欠かせない。
それだけ大事なお役目であること大事な存在であること、それは分かる。
でも死ぬまでずっと誰にも会えず外にも出られない生活なんて、どれほどの孤独と戦うことになるのだろう。
「お姉は愉快に過ごしてたみたいやけどな。泉ちゃんたちも会いに来てくれるし、十二神使もようけ使役出来てたらしいし」
ほらここ、と手紙を指さした志らくさん。
今日はみんなで障子の張替えをしたの。玄武が「剥がすならぶち破ってから捨てよう」って言い出して皆して拳で穴を開けまくったわ。楽しくなっちゃった六合が飛び蹴りして枠ごと壊して、私も楽しくなっちゃって頭から障子に突進したら木枠から首が抜けなくなったのよ。しこたま青龍に怒られたわ。
玄武、六合、青龍。
あがった名前はどれも撞賢木厳之御魂天疎向津媛命の使い、妖でありながら穢れを嫌う唯一無二で清廉潔白な存在、十二神使だ。