初めは恐れ多くて断ろうとしたけれど、畳み掛けるように「前に"私に出来ることはないか"って聞いてくれたよな?」「あんな大きな神事────観月祭の月兎の舞は引き受けたのに?」と人のいい笑みで言われてしまい、反論の余地はなくなった。
禄輪さんって結構ずるい人なんだと思い知る。
奉納する舞は割となんでもいいらしくて、学校で習った巫女舞のどれかで何とかなりそうだったと思ったし、その時は集まるのは身内だけと聞いていたので熟考の末引き受けたけれど、あんなにも大勢の人が集まるなんて聞いていない。
こんなに心臓がバクバクするのは観月祭以来だ。
そんな理由で、私は開門祭と観月祭に引き続きこうしてまた巫女装束を着ることになった。
控え室として用意してもらった社務所の小さな会議室、鏡の前に立ってもう一度おかしなところがないか確認する。
「……よし、変な所はなさそう。演目だって浦安の舞だし、いつも通りやれば大丈夫だよね」
自分を落着けるために深く息を吐いて、社から借りた巫女鈴の感触を確かめる。
巫女舞を奉納するのは14時、あと一時間はある。
「……ちょっと確認しとこう」
座って出番を待つなんてできる訳もなくいそいそと立ち上がってテーブルを隅に寄せた。