みんなしてベランダから顔を出すと、朱色の袴を身につけた若い女性に耳を引っ張られるほんのり顔が赤くなった鬼三郎さんの姿がった。


「あ、巫女頭」


女性を見て鬼市くんがそう呟く。


「お前んとこの社の?」

「そ。キレるとやばい」

「じゃあ今結構やばい感じ?」

「かなり。あと3秒くらいしたらツノ生える」


3、2、1と鬼市くんがカウントして0になった途端、肌色の肌が真っ赤に染まり綺麗な黒髪の間から4本の茶色い角が生えた。細い腕は瞬く間に逞しい腕に変わる。顔はよく見る般若のお面のような吊り上がった目と牙を剥き出した形相だ。

ヒェ、と誰かが零した。

恵衣くんが見たらまた卒倒しそうだ。


「おい鬼市! 帰るで! 巫女頭にバレてしもた!」

「バレたとは何ですかバレたとは! 神撰の御神酒を盗むなんて、それでも宮司ですか!?」

「ああ宮司や! 宮司権限で持ち出したんや! 何が悪い!?」


喧嘩を始めた二人に「ああもう」と鬼市くんが息を吐く。


「て事だから今日は帰る。今度絶対アイス奢れよ慶賀」

「おう。また会えたらな」

「俺も節分祭には来るから。それにその後も、割とすぐに会うことになると思うけど」


割とすぐ?

聞き返す前に鬼市くんはバタバタと階段を降りていった。すぐに玄関から飛び出してきて、喧嘩を始めた二人の間に割って入る。

取っ組みあいになった二人を簡単に引き剥がした鬼市くんは、振り返って私たちに軽く手を挙げると二人を仲裁しながら帰っていった。