「えっと……体調は大丈夫? 千江さんが気分悪いようなら病院行こうって。一応禰宜が軽く診てくれてたけど」

「それはいい。問題ない」

「そっか、よかった。今日はもう私達もお勤め終わりだからゆっくり休んで」


また沈黙が流れる。

気まずさもあって「それじゃあ私行くね」と腰を浮かせたその時、恵衣くんが咄嗟に私の手首を掴んだ。

くいと引っ張られて目を瞬かせながら振り向く。


頬を染めた恵衣くんが何かをこらえるように顔をしかめて私の手首を掴んでいる。


「恵衣くん?」

「誰にも話すなよ」

「え?」

「だから! 俺がその……」



言いにくそうに口籠る。

ああ、とひとつ頷いた。



「鬼が苦手ってこと?」

「わざやざ口に出すな!」



あはは、と今度は声に出して笑ってしまった。

奥歯をかみ締めて私を睨む顔でさえ、今は照れ隠しにしか見えなかった。

言わないよ、と笑いを堪えながら答える。

その返事にもまだ不服なのか顎に皺が寄っている。