笑っちゃダメだとは分かっているんだけれど、あまりにも恵衣くんの反応が意外で堪えられなかった。
だってあの恵衣くんに、冷静沈着でなんでもソツなくこなして完璧な優等生の恵衣くんに、そんな可愛らしい苦手なものがあったなんて。
くすくすと笑い続ける私にもう反論する気力をなくしたのか、いつも通りの不本意そうな顔でそっぽを向く。
「人間なんだし苦手なものも一つや二つあるよね」
「やめろ励ますな」
「私もまだ妖には慣れないし」
「……頼むから勘弁してくれ」
いつもの高圧的な口調が解けた。
弱りきった声でそう言うと両手で顔を覆って項垂れる。
「……小さかった頃、夜の社で調子に乗った餓鬼の集団に追いかけ回されたんだよ。それ以降鬼は種類問わず好きじゃない」
蚊の鳴くような声でそう言った。
餓鬼と言えば、鬼の一種だ。小学生くらいの背丈をした妖で、手足は皮と骨だけなのにお腹だけやけにぽっこり膨らみ、窪んだ目をした姿をしている。
確かにあの集団に追いかけ回されたらトラウマになるかもしれない。
笑ってしまったことに少し申し訳なさを感じた。