「あの、急に動いたらよくないよ。派手にぶつけてたしコブになってると思う」

「……お前、なんでここに。てか俺……」


こめかみを抑えて息を吐いた恵衣くん。

頭をぶつけて気を失ったせいで記憶が混濁しているらしい。


「恵衣くん、頭打って気を失ってたの。打ち合わせのために会議室の準備してたのは覚えてる?」


薄目で私を見た恵衣くんは考え込むように俯く。


「その後ほら……」


また沈黙が十秒。

次の瞬間、耳を真っ赤にした恵衣くんがバッと顔を上げて私を睨んだ。



「別に鬼が怖い訳じゃないからなッ! 驚いて足を踏み外しただけで、俺は……ッ」



予想外の反応に目を瞬かせた。



「えっと……さっきまでは驚いて足を踏み外したんだろうなってみんな思ってたんだけど」



恐る恐るそう言う。

また長い沈黙。次の瞬間、今度は首からおでこまで真っ赤にした恵衣くんが「うるさいッ!」と噛み付いた。

堪えきれずに吹き出すと、般若の顔をした恵衣くんが私をきつく睨む。


「鬼、苦手なんだ」

「うるさい! 違うって言ってんだろ!」


今反論すればするほど墓穴を掘ることになるのに気付いていないらしい。