一階の社務所に降りてくると、千江さんが「えらい悲鳴あげてたな」とくすくす笑って私たちを労う。

慶賀くんは「ひどいよ千江さん!」と唇をとがらせて詰め寄る。



「毎年恒例なんよ、許してや。宮司もこの後の奉仕はせんでええ言うてたし、お小遣いあげるからみんなで遊びに行っといで」

「マジで!? やりぃ! 千江さん大好き!」

「単純な子やねほんま……。ほんなら用意しとくし、恵衣くんの事ちょっと様子みて来て。部屋で寝かせてるから」

「はーい!」


機嫌よく返事をして揃って社務所を出た。

社頭を横切り宿舎へ向かう。


「あのぶっ倒れたやつ、恵衣って言うんだな。大丈夫なのか」

「派手な音立ててたもんな〜、まあ千江さんも何も言ってなかったし大丈夫だろ。そういやお前なんて名前?」

鬼市(きいち)。よろしく」


よろしく〜、とみんながその流れで自己紹介を始める。一番最後に自分も名乗ると鬼市くんは「よろしく」と笑う。


「鬼市も八瀬童子なんだろ? 鬼三郎さんみたいなあんな感じになんの?」

「なるよ、あんな筋骨隆々じゃないけど。俺は人の姿の方が気に入ってるし、滅多に鬼の姿にならないかな」

「ふーん。そういうもんなんだ」


慶賀くんが興味深げに目を丸くする。


「鬼市も高校通ってたりすんの?」

「通ってる。今日は創立記念日で休み。ちなみにお前らと一緒で高一」