「おお、そうだな。悪い悪い」
がしがしと後頭部をかいたその人、瞬きをした次の瞬間そこに座っていたのはライオンのたてがみのようなもみあげをした強面な初老の男性だった。
大きな口を開けてガハガハと笑う。
そしてその人が、さっきそこに座っていた人と同一人物であることを理解する。
「改めて挨拶する! 八瀬童子一族の頭領、鬼三郎や」
やがて金縛りが解けたみんながパラパラと挨拶をした。
「あ、あの……八瀬童子って事はつまり」
来光くんが恐る恐る手を挙げた。
「おう! 生粋の鬼一族や!」
胸を張った鬼三郎さんにみんなは納得したように息を吐いた。
八瀬童子、京都に住む鬼の妖で伝説では平安時代の日本の仏教僧である最澄が使役した鬼とされている。
冬休み明けの妖生態学の授業で鬼の44種を全て書く小テストがあって、前日の夜に皆で悲鳴をあげながら勉強した記憶はまだ新しい。
「千江から聞いたやろ、うちの節分祭は特別やって。うちの節分祭は毎年本物の鬼に鬼役をしてもらうんや」
「ガッハッハッ! 毎年社頭はガキ共の泣き叫ぶ姿で阿鼻叫喚の地獄絵図やぞ!」