どうやらお客さんが来たらしい。


「来たみたいだね。慶賀、それ以上食べたら流石にバレる」

「ちぇー、じゃあこれでラスト!」


そう言いつつ両手で一枚ずつ手に取った慶賀くんにくすくす笑う。

会議室を見回す。

今お湯を沸かしに行けばちょうどいいかもしれない。

用意していた急須に手を伸ばしかけ、私よりも先にほかの手が急須を掴んだ。



「恵衣くん」


顔を上げると恵衣くんと目が合った。しかしすぐにふっと視線を逸らす。


「やる」

「ありがとう、じゃあお願いするね」

「ん」


相変わらず口は悪いけれど、口も聞きたくない顔も見たくないという頑なだった態度は、二学期の騒動を経てだいぶ軟化した。

口数は少ないけれど無視されることも嫌な顔をされることも少なくなった。少なくなっただけで減ってはいないけれど。


「客が上がって来る前に三馬鹿をどうにかしておけ」

「三馬鹿って」

「事実だろ」


苦い顔をした恵衣くんがまだクッキーをお皿から盗もうとしている慶賀くんをちらりと見てため息を吐く。

いいからどうにかしろ、と目で訴えると急須を待って会議室のドアに手をかける。



「あ、恵衣くん待って。クッキーだからお茶よりもコーヒーの方が────」



その続きの言葉は、勢い良く開いた会議室のドアの音でかき消された。