「それまではうんともすんとも言わんかった鼓舞の明があっさり発動してな。お姉が"これは私のおかげやな"ってドヤ顔で言うんよ。……そうや、その時そんで、"これはお礼にマリオのカセット貰ってもええくらいやな"なんて言うて、私のゲームボーイのマリオ、かむくらの社に持って行きよってん! 小遣い貯めてこうたやつを! あの泥棒女は!」

「あ、あの志らくさん……?」

「ああああッ! 今の今まで忘れとったけど、思い出したらまた腹立ってきた!」


目をかっぴらいて髪を掻きむしった志らくさん。

その時、朝拝の準備をするためにゾロゾロとみんなが神楽殿へ入ってきた。



「なんやの。朝から騒がしい子やね」

「ちょおお母さん聞いて! 志ようが私のマリオのカセット取ったんよ!」

「あんた何年前の話してんの。それよりもさっさと神楽の用意しや」

「ほんまにあの女許せん! いつもいつも、私のものを平気な顔して奪いよるんよ! 残してたハンバーグの最後の一口も唐揚げの最後の一個もケーキのいちごも!」


どすどすと足音を立てながら神楽殿を出ていった志らくさんに苦笑いをうかべた。


その日の朝拝の神楽は何とも荒々しい舞だった。思い出した志ようさんに対する小さな恨みがそうさせたのだろう。

隣に座っていた泰紀くんが「あの人、俺より食い意地汚いな」と零す。堪えきれずにプッと吹きだしてしまった。