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「なんで俺たちが優勝じゃねえんだって話だよな。1番拍手でかかったのに」

音代の横でそう不服そうに口を尖らせた九条。
音代はクスリと笑う。

「まあ、ピアノが音楽の先生ってのは失格だろうな」

「しようがねえだろ、他に弾けるやついないんだし」

2年1組は優勝は逃したものの「自殺の曲」をフルで歌ったことへ周りの食いつきは凄まじいものだった。タイトルをかえ、曲の続きをつくるというとんでもないことをやってのけたのだ。
どこか清々しい気持ちで空をあおぐ九条。
担任の坂木からご褒美だと配られたオレンジジュースを飲みながら、ちらりと音代をみる。

「俺さ、今まで何もやりたいこととか目標とかなかったんだけどよ」

「ああ」

「ばあちゃんのこととか、今回のこととかあって、1つ決めたことがあって」

前を見据えていた音代が九条の方を向く。

「音楽で人を救うってやつ、やってみたいんだよな。俺タンバリンしか叩けねぇけど」

「えらく漠然としてるな」

「仕方ないだろ、まだ何も音楽のことしらないんだから」

ふ、と音代は小さく笑う。
自分のせいで歪んだ男と、そして音楽で人を救いたいという男。音代は少なからず人に影響をあたえてしまったことへの不安と、そして希望が心中に芽生えはじめていた。
音楽に自分を触れさせなかった父を思い出す。父は自分を脅威に感じて近寄らせなかったんじゃない、音楽により歪んでいく息子をみたくなかったのだとそう思うようになった。
ーーー正解でもあり、不正解だったよ、父さん。
結局自分は、音楽に振り回されてばかりだ。

「音楽療法士って仕事があるってネットで見てよ、いいなって思ってんだけどどう思う?先生」

「お前ピアノ弾けるのか」

「いや弾けん!でも先生っていう師匠いるから大丈夫!」

「図々しいにもほどがあるな。金髪ヤンキーを弟子にする暇はない」

「黒髪でピアスとったらオッケー?」



まずは、この能天気なヤンキーにピアノを教えるところからだと音代は空を仰ぎながら笑った。