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「つまり、九条くんは知ってたってことね。だから続きをつくる許可はとってるって言えたわけね」

池尻の言葉が教室に響く。
2年1組のクラス全員、それから坂木、音代も音楽室に集まった。

「まあな、音代先生は最初からこの件については動いていたけど」

「え、そうなんですが、言ってくださいよ」

坂木が隣の腕を組んで立っている音代にそう言う。
「言えるわけないだろう」と鋭く坂木を見れば坂木はいらないことを言うまいと口をつぐんだ。
そして真里がその動画を流しながらゆっくりと状況を整理しはじめた。

「この動画の拡散は、橋田くんが仕組んだことで、それを歌ってるのは間宮さん、か」

真里の言葉に間宮に視線が集まる。間宮は頭を下げた。

「ごめんなさい、わたしのせいで」

「いやいや間宮さんのせいじゃないでしょ、だってこんな拡散の仕方されるって知らなかったんでしょ」

「でも、声でバレたくないから喋らなかったんだろ」

1人の男子生徒がそう言う。

「喋れなかったんだ。気持ちくらい分かれよ」

九条のその言葉に教室がぴり、と静まり返った。
1人かけた教室。これからどうするのか、誰しもがそう思う。
そんな中音代はため息をついてゆっくりと教壇に歩いていく。
そして腕を組んで不安そうな連中を見渡した。

「お前らは救うんだろ、この曲を。人が死んだ過去は変わらない。その分残されたものたちを救う音楽を奏でるべきだ」

ーーー音代自身も含めて、全員で。

「いいか、お前たちはこの曲を完成させて、歌って、拡散させる義務がある」

音代の言葉に、クラス全員の目が少しずつ変わっていく。たかが音楽、されど音楽。
音楽は闇と光両方を持ち合わせているが、それは決して人間のそばを離れないものだ。

「でも、元々橋田くんが伴奏をする予定だったよね。ピアノはどうするの?」

ある生徒がそう言葉を放つ。

「確かに、曲をつくりながらってなるとピアノもある程度弾けるやつじゃないと」

「曲のこと知ってるってなると、間宮さんじゃない?」

間宮は迷うように瞳を泳がした。みんなが求めていることなら自分がピアノを弾こうとそう思い頷こうとすれば「いや」と音代に制止される。

「ピアノは俺が弾く。間宮は」

「っ」

強く、まっすぐな目が間宮をうつした。

「歌え」

九条や真里、池尻もその言葉に頷いて間宮を見る。
間宮自身も自分自身を救うためにはその方法しかないことは分かっていた。
人を救う曲を作りたい。歌いたい。みんなと一緒に。

「自殺の連鎖をとめられるのは、俺たちしかいねぇんだ。みんなで作り上げるぞ」

九条の言葉にみんなが頷く。
そして九条は、間宮に瞳を向けた。

「この曲のタイトルは、自殺の曲なんかじゃないよな、間宮」

「うん」

間宮はみんなを見渡し、目を瞑る。息を吸った。
闇に沈んだ音楽を救いの曲にするために。
これは内気で、自分の気持ちを素直に言えない不器用な少女がもがきながらみんなの力を借りて前に進む、そんな希望の歌である。