有名になった。

だが、それは間宮の思っているそれとは違った。
間宮の曲の民衆のイメージは『自殺の曲』で広まっていた。

「なに、これ」

橋田から「君の歌、バズってるよ」と連絡をうけ送られてきたSNSをひらいた間宮は目を見開く。
自分の思い描いていたものと違ったからだ。『死』にたいして執着しているようなコメントで溢れかえっていた。
みてはいけないとは分かっていても、間宮は負の連鎖を次々と目に焼けつけていく。

『実際に自殺した人がいるらしい』

『なんかこの曲聴くと死にたくなってきた』

『でも不思議と聴いちゃうよな』

『この動画の最後までみたやつは自殺するらしい』

『でもこれフルじゃなくない?』

『自殺の曲』

『わたし、明日死にます』



間宮の声にならない声が音楽室に響き、床に崩れ落ちた。そして思わず自分の手に持っているそれを離す。
息が荒くなり、首に手を添えた。

「はっ、」

自分の曲で、人が死んでいる。
そんなことあるはずがない。
あってはならないことだ。
何が起きているのか間宮には分からなかった。
パニックになるなか、音楽室の戸がひらく。

「間宮さん」

間宮の様子をみて、慌てるともなく近づいたのは橋田であった。
そして床に打ちひしがれる間宮の前にしゃがむ。

「みた?これ」

「っ」

差し出されたスマホの画面。
みたくなくてぎゅっと目を瞑った。床に涙がこぼれる。

「これからもっともっとこの曲は広まる」

橋田は意図的にそういう曲になるように仕向けたのだと間宮は確信した。
何をしたのだろうか、なぜ自分なのか、消したい、いや、消えたい。

「消してよ」

「無理だよ、消したとしてももう広まっている」

「消して!」

間宮の声がそこに響いた。喉がきゅっとしまるような感覚になり言いたいことは山ほどあるのに声を出すのがつらくなってくる。
しゃくりあげながら「消して」と何度も言っていれば、橋田はため息をついた。

「喜びなよ、有名になれる人なんてほんの一握りなんだよ?それを成せたんだから感謝されてもいいと思うんだけど」

「しかも」と囁くように、言葉を続ける。

「君の曲で、人が死んでる」

ひゅ、と短く喉がなった間宮。ききたくなくて耳を塞ぐが橋田は狂気的に笑いながら間宮に言葉の攻撃をぶつけてくる。
もうやめてくれ、とそう叫ぶこともできない。何度も何度も首を横に振った。もう嫌だ、逃げたい。

「すごいことじゃないか、君の歌が人を動かしてるんだよ?これって革命だよ、ね、分かる?間宮さん。君の音楽が、歌が、人を死にいざなってる。

もっと歌ってさ、もっともっと有名にならなきゃ」

橋田は間宮が闇に落ちていくのと反比例するようにそう言って笑う。
音楽は魔法だなんて、何を言っていたんだろうか、歪む視界の中間宮はそう思った。こんなことになるなら人知れず密かに隠れて歌を歌っていればよかった。
人に自分をわかってほしいだなんて思ってはいけなかった。

「また、一緒に続きをつくろう、間宮さん」


ーーーーもう、歌ってはだめだ。

そう思った。