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いつもとは違う体育館。いつもより大きく音をたてる心臓の音を落ち着かせるように深見はイヤホンをした。

その曲の1番の途中では、真里と昔よく弾いていたねこふんじゃったの連弾で深見が弾いていた方の裏メロに似ているものが流れている。そこで毎回クスリと笑ってしまう。

ーーー『わたしはあなたに憧れてる』

いつだって、彼女に胸を張っていられる自分でいたい。

ーーー『いつだって前を向いてがむしゃらに』

ポン、と肩に手がのった。目を開けると昨日深見に「価値観をおしつけるな」と怒鳴った同級生だった。
その口が「勝つぞ」と動く。深見は頷いた。
昨日、あのまま闇にのまれなくてよかった。真里が電話をくれてよかった。音楽をきいてよかった。走ってよかった。ちゃんと、自分の気持ちを伝えられてよかった。

あとは、自分のやってきたことを無駄にしないように。

ラストの盛り上がりのサビが終わると、バスケットボールのシュート練習の時にする部活の掛け声が曲にもり込まれていた。

真里はどんな人たちを巻き込んでこの曲をつくったのだろうか、真里だけでなく色んな人の声が自分の耳に入ってくる。背中をぐん、と押された気がした。

イメージしろ、勝つことを考えろ。今、自分のだせる全部をぶつける。


ーーー『確固たる、勝つイメージを』