出来上がった曲はCDではなくデータとして飛田からスマホに送られてきた。
少し修正を加えてくれた飛田。レコーディングが終わって数時間後には完成したと真里に連絡があった。見返りも求めず、(いちご大福は除いて)ここまでしてくれるなんて。音代の頼みだからと言っていたが、やはり2人は深い関係なのだろうと勝手な妄想を広げる。そして、感謝の気持ちを込めてまたいちご大福を持っていこうと心に誓った。
真里たちはレコーディングが終わり、打ち上げも兼ねてみんなでファミレスへと集まっていた。
各自飛田から送られてきた曲を聴く。

「なんかさ、デビューできそうなくらいすごくない?これ、インスタあげていい?」

「まだダメだよ咲。相原さんが深見くんに曲をきいてもらうのが先だよ」

「さきだけにな」

「九条くんうるさいよ?」

凛の言葉に冷静なつっこみに隣に座っている愛子や間宮が笑う。そんな中真里はスマホを両手にかかえ頭を悩ませていた。
真里は曲を深見にきかせる手順に迷っていた。
試合は明日だ。
今日、渡さないと意味がない。
だが、直接会ってあなたのために曲を作りましたなんて言えない。自信作ではあるが、恥ずかしさが勝ってしまう。
ぽん、と真里の肩に手がのった。
真里が顔を上げると隣で間宮がスマホの画面をみせている。

『今回、わたしを誘ってくれてありがとう。楽しかった。わたし、相原さんの音楽のセンスと、歌声大好きだよ』

ーーー『私は間宮さんの音楽のセンスとピアノが大好きだよ』
いつか真里が間宮に言ったその言葉。
間宮がにこりと笑う。
そして、再び画面に何か文字をうった。

『誰かのために曲をつくれるのって、誰でもできることじゃないよ。音楽で気持ち伝えられるのって素敵だと思う』

くっ、と真里の喉が小さく鳴った。
何を迷っているんだ。と真里は立ち上がる。ここまでみんなを巻き込んでおいて深見に伝えないのはここまでの努力を水の泡にするのと同じことだ。

「わたし、行ってくるね」

どこに、と言わなくてもみんな分かっていた。笑顔で行ってこい、と真里の背中を押す。

1つのものを作り上げた仲間たち、というのは学校生活の中で何度か耳にすることではあるが少し前の真里は「青春」をどこか冷ややかな目で見ているところがあった。だが、自分のやりたいことに人がついてきて協力してくれ、絆がうまれる。これは今しかできないことである。深見との関係がどうなろうと、この思い出とこの曲だけは自分宝物だと胸に刻んだ。
走り出した真里。
走りながらスマホを取り出し、耳にあてた。

ーーー今、1番この音楽をきかせたい人のところへ。