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真里は飛田のところから帰るその足で自分の家のすぐ目の前にある家のインターホンを鳴らした。
「あら真里ちゃん!すぐに聡太呼ぶわね」
真里が来ることになれている深見の母親がの声がインターホンから聞こえる。
通話終了をおさないため、「聡太!真里ちゃんきたわよ!」という声まで入っている。
小さい頃から変わらないそれに真里は笑みが溢れる。
しばらくして待っていると、家のドアがあいた。
不機嫌そうにでてきた深見に真里は片手をあげる。
「よ」
「なんか用?」
練習着ででてきた深見。大会前になると近くの公園で
遅くまで練習しているのを真里は知っている。先ほど家に帰ってきて自分の部屋でゆっくりしているところだった深見。前髪がわけられておりいつもはみえない額がのぞいていた。
「ちょっと話せる?」
「まあ、いいけど。ジュース奢れよ」
そう言われることを分かっていた真里は、先ほど自動販売機で買ったオレンジジュースを深見の前に差し出し、そのまま深見の頬にあてる。
「つめた」
首をすくめた深見。学校という小さな世界ではない。そして周りにはひやかす友達や同級生もいない。
深見が小さい頃からずっと知っている幼馴染に戻る瞬間が真里は好きだ。
2人で公園まで歩く。
深見は真里からもらったオレンジジュースをあけて一口飲んだ。
「コーラが良かったなあ」
「奢ってあげただけありがたいと思いなよ」
深見は笑いながら、「はいはいありがとう」とジュースの蓋をしめて手のひらでペットボトルを右手から左手へと行き来させる。
公園にはいり、ベンチに座った。
しばしの沈黙がはしったが、家族のような距離感の2人は気まずい雰囲気だとは感じない。
「部活、どう?」
「普通だよ」
真里からしてみれば普通よりもっと頑張っているように見えるが深見自身はそれが当たり前なのだろう。いつも1つのことにがむしゃらになれる深見が真里は羨ましかった。
「この前、聡太がいつも聴いてる曲侮辱するようなこと言ってごめんね」
真里がそう言うと、深見は少し戸惑ったように瞳を落とし腿の上で手をいじる。
「別に気にしてない」
「ごめん」
「気にしてないって言ってんだから謝るなよ」
真里はごめん、と言いかけた口を閉じる。
「俺さ、ひとつのことに手一杯になると夢中になりすぎて他のことに手がつけられなくなるんだよ」
「うん、知ってる」
ふふ、と笑った真里。小さい頃からそうだ。
真里が先に逆上がりができるようになれば、深見は悔しがって一日中練習していたし、なわとびもよく分からない技までできるようになっていた。
部活をするようになれば、自分が納得いくまで練習する。
真里が入る余地がそこにはないかのように。
だが、そんな深見が真里は好きだ。
「余計な感情をいれないためにも、1曲の音楽をきいてイメトレして部活にのめりこめるようにしてて」
「うん」
「でもさ、懲りずにこうやって一緒にいてくれてる真里に感謝もしてるんだ。最近は周りが騒がしくて迷惑かけたくないから一緒にいないけど」
深見が言っている「迷惑」とは周りが深見と真里の関係をとやかく言ってくることだ。
真里は気にしていない。
だが、深見は自分が騒がれて嫌だというより、真里に嫌な気持ちをさせているのではないかと不安になっていた。真里は、そんな深見の気持ちに首を横に振る。迷惑なんて一ミリも思っていない。
「それとさ、俺これ以上真里のこと好きになったら、部活に集中できなくなりそう」
「え」
「え」
真里が目を見開くと、深見も自分の口からこぼれ落ちた言葉に困惑する。
ひゅうっと風が2人の髪を揺らした。
「今、なんと?」
真里は首を傾げて深見を見つめた。
深見の顔がみるみる赤くなっていく。
「な、なんでもない!うそ!忘れろ!」
立ち上がったら深見は早口でそう言って、絶対に真里が追いつけないスピードで走り出した。
真里はポカンとその離れていく背中姿をみつめる。
忘れられるわけがなかった。
ーーー「これ以上、好きになったら部活に集中できなくなりそう」
真里は頬に手のひらをあてる。
「あつい」
今、歌詞を書いてしまったら甘ったるいラブソングになってしまいそうだった。