相原真里は悩んでいた。幼馴染と恋愛関係になるにはどうしたらいいのかと。

幼馴染の部活が終わるのを待つ。部員と手を振って別れたあと、幼馴染の笑顔が消えた。カバンから取り出したイヤホンを耳にあてるのをみていた真里。またか、と思いながらもその姿を追いかける。幼馴染である深見聡太は一瞬横目で真里をみるものの、目を逸らし足を止めることはなかった。

「ねえ」

横に並んでそう声をかけたが深見は聞こえていない。何かに集中している。本人は大会前に毎日イメトレをして集中力を高めているのだと鼻高々に言うが、真里にはよく分からない。よく分からないロックバンドに応援されるより、いつも近くで見守っている幼馴染が隣で応援した方が力が出るってものではないのか。
だが、大会前になるといつもそうだった。

「ねえってば」

大会前関わらず高校生になってから距離を置かれ始めていると思っていた。だが、このモードに深見が入るとより突き放されるような感覚になるのだ。
真里は耳に爆音で流れているであろう音楽に負けないように声をかけるが深見は反応しなかった。
腹が立った。

「ちょっと、何すんだよ」

真里は深見の耳におさまっているイヤホンを片耳外した。
深見は顔を顰め、真里を見る。

「一緒に帰ってる時くらい、イヤホン外してよ」

「一緒に帰る約束なんてしてない。集中したいから先に帰って」

「集中集中ってさ、その音楽の何がいいの。ちょっと聴かせて」

真里は先ほど無理やり外した深見のイヤホンを自らの耳におさめる。
深見の舌打ちが聞こえた。そして少し周りを気にするような仕草をする。
おそらく噂の的になりたくないのだろうと、真里は深見のちょっとした仕草で嫌でも分かってしまう。
幼馴染というだけで、恋愛に発展するのではという周りの期待があつかましくなる。色恋に鋭い高校生たちはすぐに冷やかしにかかるのだ。
真里は、それでもよかった。
深見の気持ちは照れ臭さや周りの冷やかしの拒絶反応で分からないことが多い。

流れてくる音楽は、少し前に流行った少し激しめのロックバンドの曲だった。
真里は聴き慣れておらず、そのうるささに思わずすぐにイヤホンを外した。

「よさが分からないんだけど」

「うざい。分からなくていいよ、一生」

言葉を間違えたことは真里にも分かっている。後悔した時には、深見は真里の手からイヤホンを荒々しくとり、早歩きで帰っていく。
曲に元気付けられて、頑張ろうってなるのは理解できるが、その役割が自分でないことが理解できなかった。
それに深見はあのガシャガシャした曲をずっときいてイメトレをしているのだという。

ーーー全く理解ができない。

自分がいくら隣で応援したところで、あの音楽に邪魔をされるのだと思うと真里は腹が立って仕方がない。

深見と距離を縮めたいのに、音楽が邪魔をしている。

真里の感情に本人にもよく分からない感情が込み上げてきた。

ーーーわたし、音楽に嫉妬してるの?

真里は泣きそうになるのを堪えて、カバンからスマホをとりだす。
ひとまず、深見の好きな曲を好きになる努力をしようと思った。
イヤホンを耳におさめる。
深見がきいている曲を調べて、流し始めた。

「うるさあ」

真里の掠れた声が、哀れに暗闇におちていく空に消えていった。