ーーー

周りの音を遮るようにイヤホンで耳を塞いだ。流れてくる音楽。
イメージをする。このイメージはいつだって勝てるという確固たる決意のもとに仕上げた妄想という名のイメージトレーニングである。
部活の大事な大会が近づくと、深見 聡太という男ははいつも同じ曲を聴いていた。そして何度も何度もイメージする。

ーーー勝つイメージを。

ひと通りのルーティーンを終えると、深見は耳からイヤホンを外す。
シューズが床を滑る音、ボールがゴールに跳ね返る音や部員の声が体育館に響き渡っている。
イヤホンをカバンの中に無造作にしまい、流れてくる汗をタオルで拭った。

「深見、お前大会近づくと毎回そんな感じだよな、何聴いてんの?」

1人の同級生の部員が深見にそう話しかける。
いつも大会前の部活になるとコートの端で目を瞑って曲を聴いている深見。部員たちはそれが不思議で仕方がなかった。誰も触れてこなかったそれについに同級生である立花が問いかけたのだ。

「普通に好きなロックバンドの曲だよ。気持ちが高まるからいいんだ」

「へえ」

バスケットボールが深海の手元に渡される。
それを片手で遊ばせながら深見はへらりと笑った。

「よくアスリートとか試合前に曲聴いてるだろ?同じ感じだよ」

「まあ、気持ちは分かるけどそんな頻繁に聴いて飽きないか?同じ曲聴いてんの?」

「うん。同じ曲だよ、ルーティーンみたいなもんだから飽きるとかはないかな。よかったらやってみなよ、集中したい時とか意外といいよ」

「そうなんだ」と返事をした立花。おそらくやらないだろうなと深見は笑う。別に集中力のスイッチなんて人それぞれだということは分かっている。深見にとってはそれが「音楽」というだけだ。

「お、真里ちゃん見にきてんじゃん、よかったな深見」

「何がいいんだよ」

「彼女だろ?」

「幼馴染って言ってんじゃん」

体育館の入り口付近で、深見に小さく手を振ったその人を深見は視界に入れる。
家が近く小さい頃から一緒の真里とは、恋人というより家族のような感覚であった。
なので、周りから冷やかされるとどうも照れくさくなり、わざとらしく興味のないふりをしてしまう。
手を振られても、振り返すことはせず目を逸らした。
今はいらない感情に思えて仕方がなかった。
集中力が途切れて、変な恋愛脳になってしまう前にはやく切りかえなければ。

「ちょっともう一回曲聴いてくる」

「はあ?」

踵を返した深見に、立花は理解できないと言った表情をしてバスケットボールを軽く深見にぶつけた。