――ピピッ、ピピッ…………カチッ。
 いつものように、私はのそのそとベッドから這い出し、安眠を妨げる目覚まし時計を止める。
 今日は休日で、学校は休み。いつもなら目覚まし時計はかけないが、今日は違う。早起きをして、明日のバレンタイン・デーに向けて準備をするのだ。料理は得意な方ではないが、どうせなら手作りをしたチョコレートを好きな人に食べてもらいたい。例え、義理チョコだと思われようとも。
 そんなかねてからの決意を寝ぼけた頭で反芻しつつ、今ほどアラームを止めたデジタル時計を寝ぼけ眼でぼんやり見つめて……私の意識は一気に覚醒した。

「えぇーーっ!? 今日土曜日って……バレンタイン日曜じゃんっ!?」

 早朝六時半の家の中に、私の声が響き渡った。

 *

 そんな衝撃から早二日。バレンタイン・デーの翌日(・・)
 私――綾崎凛は、重たい足取りでとぼとぼと登校していた。

「りんちゃーん! おはよ!」

 そんな私の歩みよりも何倍も軽やかに駆けてきたのは、友達の中道鈴音。そういえば、鈴音も金曜日に何やら紙袋を持ってきていたなぁと思い出す。

「お、おはよ……」

「え、りんちゃん、どうしたの? すっごく落ち込んでるみたいだけど」

「いや……なんでも……。そういえば、金曜日チョコ持ってきてたんだよね?」

「え? う、うん」

 返事をした鈴音の頬が、ほんのりと赤みを増した。まさか……?

「……どうだった?」

「うん……成功、しちゃった!」

 やっぱりかーっ!
 心の中で絶叫する。そして後から、嬉しさと羨ましさと悲しさが同時に押し寄せてきた。

「お、おめでとう……!」

「うん! ありがとっ!」

 とっても可愛い鈴音の笑顔。そりゃあ成功するよねー……。あぁ……さらに気持ちが重くなる。もちろん鈴音のせいじゃないし、とっても嬉しいんだけど、あぁ……。

「お、おめでとう……」

「ん? ありがとう!」

「おめでとう……」

「あ、ありがとう……?」

「おめでとうぅぅ……」

「り、りんちゃん? ほんとに、どうしたの?」

 朗らかな笑顔から一転、困惑した様子で鈴音は私の顔をのぞき込んできた。

「うぅ……すずね〜〜っ! じ、実は、バレンタインが休日だって知らなくて! 結局今年も過ぎちゃった〜〜〜っ!」

 心配してくれる親友の言葉にすがりつくように、私は自分の気持ちを吐露した。バレンタインの曜日を勘違いしていたこと。当日に連絡する勇気もなく、あっという間に過ぎてしまったこと。とりあえずチョコは作ったものの、ショックのあまり家に忘れてきたこと……etc。

「うんうん、そっか。よしよし」

 小さい子どもをあやすように、鈴音は私の背中をさする。中学の時、バレンタイン当日に熱を出して学校に行けず、結局チョコを渡せなかった時も同じようにさすってくれたなぁ。うぅ……優しさが胸に沁みるよ〜〜……。

「うぅ……ありがと。少し踏ん切りがついた」

 ちょっとだけ、ほんのちょーーっとだけだけど……。

「うん。嘘だね」

「へ?」

 あれ? 一瞬でバレた?

「顔に書いてあるよ。まだ諦められないって」

「うそー⁉︎」

 慌てて私は胸ポケットから手鏡を取り出す。そんなものが書いてあっては先輩にあわせる顔が……。

「って、ほんとに書いてあるわけないでしょ! それくらいわかりやすいってこと!」

「へ? あぁなんだ、そういうことかー」

 なんだ、あせらせないでよー。

「もう、りんちゃんってば。でも、諦められないなら渡しちゃえばいいんじゃない?」

「えぇ……でも、過ぎちゃったからなー」

 誕生日プレゼントとかもそうだけど、その当日より前に渡すのと後に渡すのとでは、意味合いが変わってくる気がする。なんか、上手く表せないけど、伝わる気持ちが半分になっちゃいそうで、忘れてたって思われそうで……。
 私の心にわだかまる懸念を相談すると、鈴音はゆっくりと頭を振った。

「んーそんなことないと思うよ。バレンタインの後でも、貰った方は嬉しいと思うなー」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! だって、お菓子の種類とかラッピングとかいっぱい悩んで、りんちゃんそんなに料理得意じゃないのに一生懸命作って、そんなふうに頑張ってきたんだから、嬉しくないわけないよ!」

 私の肩に手を置き、勢い余ってずいっと顔を近づけてくる鈴音。思わず身を引きつつも、彼女のその言葉は、私の心に再度火を灯してくれた。

「……わかった。私、頑張ってみる!」

 こうして、一日遅れのバレンタイン・デーが始まった。
 
 *

 朝のホームルームが終わり、一限目。
 ボケーッと古典の先生の解説を聞き流しながら、私はどうやって渡そうか頭を悩ませていた。
 そもそも、あれだけ苦労して作ったチョコは家の冷蔵庫だ。幸いにも歩いて行ける距離にはあるものの、休み時間に往復できるほど近くはない。行けるとすれば昼休みか、放課後の部活前。

「あーでも、今日の昼休みはこの前の数学の宿題出しに行かないと……放課後に居残りはシャレにならないし……渡せるとしたら部活の時だもんなぁ……でも部活前は準備が……」

「何がシャレにならないんです?」

「ほわぁっ⁉︎」

 突然、真横から聞こえてきた声に、変な音が口から飛び出た。

「綾崎さん、集中してください。もうすぐ期末試験なんですよ?」

「は、はいぃ」

 先生に凄まれ、自然に体が萎縮していく。まぁ仕方ないよね……前回の古典の試験、十五点だし。

「昼休み、ご飯食べたら職員室まで来てください。いいですね?」

「え」

「え、じゃありません。古典は基礎をしっかり押さえておけば、ほとんどの文は読めるようになります。あなたも次のテストが悪いとシャレにならない(・・・・・・・・)のはわかっているようなので、特別授業をしてあげましょう」

「えぇーー⁉︎」

 驚きで立ち上がった拍子に、ガッターンと椅子が倒れた。
 シャ、シャレにならない……。
 ちなみに、この叫び声でまた怒られたのは言うまでもない。

 *

「はぁー……どうして今日に限って〜〜っ!」

 昼休み。鈴音と机をくっつけてお弁当を食べながら、私は愚痴をこぼしていた。

「まぁまぁ。今日はさ、仕方ないよ」

「うぅ〜〜……古文ってほとんど恋愛について悩んでるじゃん! 私も恋愛について悩んでるんだから、ほぼ古文の勉強してるようなものでしょ!」

 自分でも訳の分からない理屈が口をついて外に出る。そして、いつもならすぐに口に運びたくなるお弁当のおかずたちが、今は目の前できれいに整列したまま。端的にいえば、食べ物が喉を通らない。うぅ……。

「まぁまだ放課後が残ってるから、ね? 今日は校内練だし、マーカーとかストップウォッチとかは私が用意しておくから、サッと取りに行ってきなよ」

 どこまでも面倒くさい私の言い訳に、鈴音は嫌な顔ひとつせず、そんなことを提案してくれた。

「え、いいの?」

「うん。私も前にたくさん相談に乗ってもらったし、おあいこ」

「うぅ〜〜すずね〜〜っ! ありがど〜〜〜っ!」

 お弁当そっちのけで、親友にすがりつく。よしよしと頭を撫でてくれる親友の手は温かくて、柔らかくて。なんとしてもチョコレートを先輩に渡すぞ! と、私は改めて心に決めた。

 *

 数学の宿題提出と古典の先生の特別授業を乗り越え、午後の授業を突破し、ホームルーム終わりのチャイムと同時に私は教室を飛び出した。
 私は陸上部のマネージャーだが、一応中学では長距離の選手。足は昔の怪我でスタミナ不足だけど、体力にはそれなりに自信があった……が。

「はぁ……はぁ……」

 十分も走ると、途端に息が切れ出した。無理もない。だって、最近はマネージャーの仕事か体育でしか走ってないんだから。

「はぁ……はぁ……れんしゅう、始まる、前には、もどら、ないと……!」

 徒歩二十五分の道のりを、必死に走る。足が痛い。息が苦しい。でも、頑張るしかない。
 だって。食べて欲しいから。
 お母さんに手伝ってもらったけど、私が一生懸命作ったチョコレートを。
 見た目は不恰好だし、ちょっと甘すぎたような気もするけど。
 一日遅れで、義理だとしか思われないかもしれないけれど。
 でも。やっぱり。受け取ってほしいから。
 そして、走り続けることさらに五分ほど。

「つ、着いた……!」

 膝に手をつき、少し息を整えてから、私は玄関の扉を開け、一目散にリビングへと向かった。
 そこで――

「あれ? 姉ちゃん、早かったね」

 冷蔵庫に入れておいたチョコレートの乗ったトレーから、最後の一個をつまみ上げている弟と、目が合った。

 *

「あーーーっ! ちょっと! 優斗! 何してんのっ⁉︎」

「え? え?」

 困惑する弟を押しのけ、冷蔵庫に顔を突っ込む。
 何もない冷蔵庫の中段。昨日まで、チョコが乗ったトレーが二つあったはずなのに。

「あんた、そのチョコ……」

「あ、ごめん。美味しかったからつい……バレンタインも過ぎてるし、いいかなって……」

 全く悪気のない弟の言葉。その手の中にあるのは、ラスト一個の、不恰好なチョコ。
 無理もなかった。
 だって、バレンタイン・デーは今日じゃない。昨日なんだから。
 ……だから。

「うっ……うぅっ……」

「えっ⁉︎ ね、姉ちゃんっ⁉︎ どうしたの⁉︎」

「バカッ! なんで全部食べちゃうのよっ! そのチョコは、そのチョコは……っ!」

 涙が、止まらなかった。
 優斗は悪くない。悪いのは、今朝チョコを忘れた自分だ。こんなことになったのは、バレンタイン・デーの曜日を勘違いしていた、私のせいだ。
 視界がぐにゃりと歪んで、立っていられなくなる。ぺたりとキッチンの床に座り込み、戸惑う弟の傍ら、ただただ涙を拭い続けた。

「どうしたのー?」

 すると、そこへお母さんの声が割って入ってきた。

「あ、母さん! それが、俺、姉ちゃんのチョコつい全部食べちゃって……それで、姉ちゃんが……」

 優斗はしどろもどろになりながら、理由を説明した。お母さんには部活の先輩に渡すと言ってあったので、「なるほどねー」とおおよその経緯はわかったようだった。

「ったく、凛は昔からどこか抜けてるんだから。ほら、立って。あんたのバレンタインはまだ終わってないわよ」

 そう言うと、お母さんは落ち着いた足取りで冷蔵庫に近づき、真横にある戸棚を開けた。
 そこには、不細工なチョコレートが乗ったトレーがあった。

「昼ごはん作ろうと冷蔵庫開けたら、チョコがまるまる全部残ってるんだから驚いたわよ。もしかしたら取りに来るかもと思って、よけておいたよ」

 甘党のお父さんや優斗には気をつけなさい、とお母さんは優しく微笑んだ。

「お母さん……」

 涙でぼやけて見えたお母さんの笑顔に背中を押され、私は最後の力を振り絞って立ち上がった。

 *

 お母さんや優斗に手伝ってもらってラッピングを急いで終え、学校に戻ると、既に部活は半分くらいまで終わっていた。
 どうやら鈴音が遅れる旨を伝えてくれたらしく、顧問の先生(兼古典の先生)にはそこまで怒られなかった。ただ、

「恋の勉強……じゃなかった、古文の勉強もほどほどにね」

 とウインクされた。いったい、鈴音は何と伝えたんだろう。
 気にはなったが、部活も山場を迎えており、私はすぐにジャージに着替えて合流した。トレーニングに応じたマーカーの配置にインターバル計測と、残り少ないものの頑張って部活をこなした。……先輩が目の前を横切るたびに、どこか上の空になってしまったけれど。
 そして。部活が終わった、午後五時過ぎ。

「りんちゃん、頑張ってね! 私は応援しかできないけど、りんちゃんならきっと大丈夫!」

 部活後の整列が終わり、選手はストレッチ、マネージャーは道具の後片付けをしていると、不意に鈴音が笑いかけてきた。

「鈴音ありがとう! ほんと、鈴音がいなかったら私、今日ずっとうじうじしてたよ」

「気にしないで。私も前に背中押してもらったんだから、今度は私の番!」

 ほんといい友達をもったなぁ、としみじみ思う。私にはもったいないくらい、しっかりした親友……

「永下せんぱーい! ちょっといいですかーー?」

 ……えぇーーっ⁉︎
 ストレッチが終わってあれこれ話している選手の輪に向かって、いきなり鈴音が叫んだ。

「どした、中道?」

「今日の練習で使ったマーカーとミニハードル、ちょっと量が多いのでりんちゃんと一緒に部室まで運んでくれませんか? 私たちは別の用事がありまして」

 見ると、鈴音の後ろにいるマネージャーのみんなが何やらニヤニヤと私たちを見ている。……えーっと、根回し早すぎませんか?

「あぁ、いいけど」

「ありがとうございます! じゃあ、お願いしますね!」

 気がつくと、たむろっていた選手たちの姿もなく、後には私と先輩とマーカーとミニハードルだけが残された。

 *

 部室までの道すがら、私と先輩の間には沈黙が流れていた。いつもなら、私のドジを散々からかった挙句、「さっさとドジを直せよ〜! ドジりん!」とガシガシ私の頭を乱暴に撫でてくるのに。まぁ私もそれどころじゃなくて、いつもみたいに先輩の変な走り方をからかえてないんだけど。

「……くっそーあいつら、ちょっとは手伝えよなー」

 ぼそりとつぶやいた先輩の声が、端緒となった。
 部室まで、あと三十メートル。
 私の歩幅にして約六十歩のところで、私は歩みを止めた。

「どした?」

 先輩が、両手いっぱいにミニハードルを抱えたまま振り向く。

「その……」

 ほとんど沈みかけている夕日が、彼の後ろの窓から淡く廊下を照らしている。すごく眩しいのは、きっと、夕日のせいだけじゃない。

「先輩……」

 後ろ手に持った、マーカーの入った網袋と、チョコレートの入った紙袋の持ち手をギュッと握る。じんわりと浮かぶ手汗が、さらに熱みを増す。

「私……」

 義理としてさりげなく渡す、と決めた過去のイメージは、すっかり頭から抜け落ちていた。次に口から出る言葉は、私ですらわからない。

「ずっと先輩に……」

 中学から、ずっと想い続けてきた先輩。
 怪我で思うような走りができなくなって落ち込んでた時に、そっと支えてくれた先輩に。
 ドジで物覚えの悪いマネージャーに、呆れながらも粘り強く短距離の基礎を教えてくれた先輩に。
 変な走り方だけど、一生懸命前を向いて駆けていくその姿が、とてもカッコいい先輩に――

「これ、食べて欲しかったんです!」

 変な形だけど、一生懸命作った本命チョコレートを渡し……

「……え、マーカーを?」

 …………え。

「あ、ああああぁぁぁっ! ままま、間違えたーーーっ! こっち! こっちですっ!」

 私は、先輩に差し出す形になっていたマーカーを慌てて放り投げ、手作りチョコの入った小さな紙袋をグイッと突き出す。

「え、えーっと……ちょっと待って。これ置くから」

「あ、あわわわわっ! ご、ごめんなさい! ミニハードルいっぱい持ってもらってるのに!」

 もう終始グダグダだった。
 ミニハードルを置いたあと、先輩は少し戸惑いながらもチョコを貰ってくれた。……けど、その嬉しさより今は恥ずかしさが勝っている。穴があったら……いや、穴を掘ってでも入りたい。

「その……なんか、ごめんなさい。いろいろと」

 うぅ……最悪のバレンタインだ……あ、もう過ぎてるんだっけ……ううっ。

「いや、すごく嬉しい。ありがとう」

 先輩が、朗らかに微笑む。夕日のせいか、その頬はどこか赤く見える。
 ……でも。先輩に気を遣わせて、最後まで締まらない自分が、とことん嫌になった。

「いや、ほんっとすみません。気を遣わなくてもいいですよ。もうほんと、私どこまでドジなんだろ」

 あぁ……あんなに応援してくれた鈴音に、なんて言おう。もう……

「――いや、本当に嬉しいよ。俺、凛のこと好きだから」

 時が、止まった気がした。
 音楽室から響く合唱部の歌が、
 どこかから聞こえてくる生徒の話し声が、
 窓の外を走る車の音が、聞こえない。
 私の耳に響くのは、とくん、とくん、という心音と――

「凛のこと好きだから……だから、チョコ貰えてほんとに嬉しい」

 ――先輩の声。

「え、え?」

 今度は私が戸惑っていた。まさかいきなり告白されるなんて、思ってもみなかったから。

「……実は、凛は俺のこと好きなんじゃないかって、ずっと思ってたんだ」

 え?

「お前、俺といる時だけ顔やたら赤いし」

 えぇっ⁉︎

「ウォーミングアップの時とかチラチラ見てくるし」

 えぇぇーー⁉︎ うそ! バレてたのーーっ⁉︎
 そう叫びそうになったが、心に体がついていかなかった。パクパクと声にならない音が、魚みたいに開閉する口から漏れていく。
 だけど先輩は、そんな私の様子にツッコむことなく言葉を続けた。

「その、だからさ。金曜日にチョコ貰えなくて、めっちゃへこんだんだ」

「へ?」

「クラスの女子とか、バレンタインが日曜だからって結構金曜にチョコ渡してて、マネージャーの中道も、栄一にチョコ渡してるのに……当の本人は、部活終わって即行で帰ってるし」

 いや、それは……チョコの材料早く買いに行きたかっただけで……。

「義理でも貰えないのかーってへこんで……昨日とか、気づいたらスマホとにらめっこしてて……そこで気づいたんだ。俺、凛のこと好きなんだなー、って……」

 恥ずかしそうに視線を彷徨わせながら、先輩はそう言った。見ると、その顔は見間違えようのないほど、赤くなっていた。

「その、だから……」

 真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる、伝えようとしてくれる先輩を見ていると、

「ぷっ……あははははっ!」

 笑いが込み上げてきて、我慢できなかった。

「へ? り、凛?」

「あは、あはははっ! も、もうっ……あははっ……バカみたいじゃん……っ!」

 涙も一緒に、溢れてくる。
 笑い過ぎてなのか、嬉し過ぎてなのか。
 はたまた、空回りし過ぎてた私自身へのバカさ加減に呆れてなのかは、わからないけれど。

「バ、バカとはなんだ! そういうお前だって、俺にいきなりマーカー差し出してこれ食ってくれ、はないだろっ!」

「あははははっ! もうっ、お腹痛いっ!」

「ったく、お前ってやつは…………ぷっ、ハハハハッ!」

 お腹が痛くて、胸が熱くて。

「あはは……っ!」

 幸せ過ぎて、どうにかなりそう。

「アハハハッ!」

 私たちは声を揃えて、喉が枯れるまで笑い合った。