「やっぱり黒?」
翌朝、たまたまトイレで会った朱音に話を聞いてもらうことに。
聞くと、朱音は顎に手を当ててふむとうなずいた。名探偵の真似だ、多分。
「黒ですな」
「どうしようかな。振りたくはないんだよね」
「好きだから?」
うなずいてもよかったが、今回はれっきとした理由があるので、返事はむにゃむにゃと曖昧にして、ちゃんと話すことにした。
「う〜・・・・・・ん。なんか、振られるって悲しいじゃん」
一方通行の思いになったこと思い知らされる。それって、とても、悲しくて寂しいことだ。それも、ただの失恋じゃない。一度成就した恋が、割れるのだ。
朱音はなんとも腑に落ちないような表情をしている。
「彼から振ってもらうってこと? 好きなんじゃないの?」
「いや。ベストは話し合って別れる。一方的じゃなくて、双方で」
「ふぅん」
それでもやっぱり腑に落ちないらしい。前髪をいじりながら、釈然としない相槌を返してきた。
「え〜、朱音は? どうなの」
「別れないようにする」
「もういいよ」
真面目に答える気がないことを汲み取った藍はため息をついた。
「ごめんって。まあ、まずは琥珀ちゃんを攻めるべし。呼び出そうよ放課後」
「軽いいじめにならない?」
攻めるとか呼び出すとか。怖いんですけど。
桃真となんもないよね? はたまた、もちろん別れてくれるよね?
脳裏に浮かんだ、体育館裏で詰め寄る自分と朱音の姿がドラマで見たいじめっ子に重なってゾクっとする。まさか自分がそっち側に行くなんて。
もっての外だ。
朱音も同じらしく、眉根をぐっと寄せて聞き返してきた。
「そんな陰湿なことするやつに見える?」
「女子って相場そうじゃん」
「うわー心外だわ。それに、ジェンダーレスの時代にそういうのほんとダメだと思うよ」
「言い換える。人間って相場そうじゃん」
確かにそれもそうかと言い直すが、それでも納得しない、というかしたくなさそうな朱音は少し黙ってから口を開いた。
「・・・・・・自然との共生のこの世でそういうのほんとダメだと思うよ」
「なんなのよ」
「冗談冗談。いじめなんてしないよ。そんなやつに見えないでしょ。うん、見えない。朱音ちゃんは素晴らしい人だな」
一人で自画自賛して笑う朱音。はたから見ればかなりヤバいやつだ。はたから見なくてもヤバいやつだ。
ただ、本心で言えば藍も朱音がそんな性格には見えないので、ひとまず彼女の言葉を信じて琥珀とゆっくり話す機会を持てたらいいと思う。
「あ、アイじゃ〜ん。朱音も。教室行ってもいないと思ったら。なにやってんの」
今年に入りクラスの別れてしまった友達が、トイレの鏡にひょいっと映り込んだ。
「あ〜、修羅場について議論してた」
「大神くん?」
どうやら他のクラスにまで知られているらしい。早い・・・・・・悪事千里を走る、じゃなくて人の口に戸は立てられぬ、だ。
「ぴんぽ〜ん。面白いことになってきてんの」
朱音が悪い顔をして聞いて聞いてとばかりに身を乗り出すから、言ってやった。
「人の恋を面白いとか言うの、ほんとダメだと思うよ」
翌朝、たまたまトイレで会った朱音に話を聞いてもらうことに。
聞くと、朱音は顎に手を当ててふむとうなずいた。名探偵の真似だ、多分。
「黒ですな」
「どうしようかな。振りたくはないんだよね」
「好きだから?」
うなずいてもよかったが、今回はれっきとした理由があるので、返事はむにゃむにゃと曖昧にして、ちゃんと話すことにした。
「う〜・・・・・・ん。なんか、振られるって悲しいじゃん」
一方通行の思いになったこと思い知らされる。それって、とても、悲しくて寂しいことだ。それも、ただの失恋じゃない。一度成就した恋が、割れるのだ。
朱音はなんとも腑に落ちないような表情をしている。
「彼から振ってもらうってこと? 好きなんじゃないの?」
「いや。ベストは話し合って別れる。一方的じゃなくて、双方で」
「ふぅん」
それでもやっぱり腑に落ちないらしい。前髪をいじりながら、釈然としない相槌を返してきた。
「え〜、朱音は? どうなの」
「別れないようにする」
「もういいよ」
真面目に答える気がないことを汲み取った藍はため息をついた。
「ごめんって。まあ、まずは琥珀ちゃんを攻めるべし。呼び出そうよ放課後」
「軽いいじめにならない?」
攻めるとか呼び出すとか。怖いんですけど。
桃真となんもないよね? はたまた、もちろん別れてくれるよね?
脳裏に浮かんだ、体育館裏で詰め寄る自分と朱音の姿がドラマで見たいじめっ子に重なってゾクっとする。まさか自分がそっち側に行くなんて。
もっての外だ。
朱音も同じらしく、眉根をぐっと寄せて聞き返してきた。
「そんな陰湿なことするやつに見える?」
「女子って相場そうじゃん」
「うわー心外だわ。それに、ジェンダーレスの時代にそういうのほんとダメだと思うよ」
「言い換える。人間って相場そうじゃん」
確かにそれもそうかと言い直すが、それでも納得しない、というかしたくなさそうな朱音は少し黙ってから口を開いた。
「・・・・・・自然との共生のこの世でそういうのほんとダメだと思うよ」
「なんなのよ」
「冗談冗談。いじめなんてしないよ。そんなやつに見えないでしょ。うん、見えない。朱音ちゃんは素晴らしい人だな」
一人で自画自賛して笑う朱音。はたから見ればかなりヤバいやつだ。はたから見なくてもヤバいやつだ。
ただ、本心で言えば藍も朱音がそんな性格には見えないので、ひとまず彼女の言葉を信じて琥珀とゆっくり話す機会を持てたらいいと思う。
「あ、アイじゃ〜ん。朱音も。教室行ってもいないと思ったら。なにやってんの」
今年に入りクラスの別れてしまった友達が、トイレの鏡にひょいっと映り込んだ。
「あ〜、修羅場について議論してた」
「大神くん?」
どうやら他のクラスにまで知られているらしい。早い・・・・・・悪事千里を走る、じゃなくて人の口に戸は立てられぬ、だ。
「ぴんぽ〜ん。面白いことになってきてんの」
朱音が悪い顔をして聞いて聞いてとばかりに身を乗り出すから、言ってやった。
「人の恋を面白いとか言うの、ほんとダメだと思うよ」