蝉時雨の中、藍は家を出た。外は四十度近い猛暑。本来はあまり外出したくない季節である。しかし、肩につくくらいの髪の一部を細く三つ編みにした藍は、稲荷神社へ小走りで向かっている。
夏休みも中盤となった昼下がり。藍は、オフショルダーのワンピースに身を包んでいた。夏といえばの麦わら帽子も一緒である。足元は華奢なサンダルなので、あまり大きな動きはできない。その上あまり履き慣れていないので、すでに足に痛みも感じていた。
鳥居にもたれ、空を眺める桃真が目に入る。なにやら書かれた黒のTシャツとストレートパンツと、シンプルな出立ちだ。大きめのトートバックを持っている。実は少し、遅刻。
「あ、相生さん!」
こちらの姿を認めるなり、ぶんぶんと大きく手を振ってくる。子供か! とツッコみたくなるほどのオーバーリアクションである。
「ごめん、待った?」
これはもう、こういうときの定型分である。で、これの答えは、もちろん・・・・・・
「ああ、まあ十分くらいかな」
「違うっ」
身を乗り出してまで期待した分、肩透かしを食らってこけそうになった。そんな藍に、桃真がポケットからスマホを取り出して慌て始める。必死にスワイプしているので、多分メッセージを遡っているのだろう。
「えっ? え、俺間違えた? ごめん、集合何時だっけ」
「違うってば、そうじゃなくて。こういうときはさ、気を遣って待ってないよって言うものでしょうが」
「あ! そういうことなのか。悪い。いや、待ったとは言え十分だし俺家が隣だし、気にしないで欲しい」
「気にしないけど」
「しないんだね」
次は桃真がこけそうになっている。うん、今日もノリ良し。
「行こっか?」
「ああ。・・・・・・美容院って俺も行っていいの?」
不安げに桃真がつぶやいた。
いつだったか・・・・・・夏休みに入る少し前だったと思う。ひょんなことから桃真の髪型の話になり、長く伸びた前髪について話したことがある。そのとき、相手の目がよく見えない、というのは話す上でかなり不安だと桃真にそう言うと、彼は情けなさそうに頭をかいたのだ。考えたこと、なかった、と。
そういえば以前琥珀も、体の手入れにまで手が回らなかったと言っていた。それと同じなのだろう。
だから今日、桃真をいつも行っている美容院に連れて行くことにした。
え? 初デートで行くような場所じゃないって? ・・・・・・うるさい。
「いいと思うよ。予約したときには別に嫌がられてた気はしなかったし」
「なら、いいけど。美容院なんて初めてだから。生まれた頃から毛繕いは自分でしてたし」
毛繕いって・・・・・・とツッコむより先にふと、不安になった。
「え、ねえ、余計なお世話じゃないよね? 無理矢理行かせてるつもりじゃないから、行きたくなかったら言ってよ?」
「気にしなくていい。俺、そういうときはちゃんと言うから大丈夫。相生さんと違って」
いたずらっぽく返されて、藍は少し安心しながらも不満げに頬を膨らませ、桃真をにらむ。
「なによ」
「だって、結局一回も泣いてくれないし」
見上げた横顔は、拗ねたような表情を浮かべていた。
「元カレが可愛い子と歩いてるの目撃したら泣くかも」
「・・・・・・それはそれでショック。まだ彼に未練があるってこと?」
桃真がしばらく考え込んでからうなった。
「嘘嘘。ごめんって。もう吹っ切れてるよ」
「なら、いいけど・・・・・・」
「どんな感じになるかなぁ。桃真って普通にイケメンだし」
「やめろよ・・・・・・」
桃真の前に回り込み、ひょいっと彼の前髪を持ち上げてのぞきこむと、わかりやすく赤くなった。
「うわぁ真っ赤。もしかしてさ、自分の熱で日焼けしちゃうんじゃない?」
「するわけないだろ。紫外線が原因なんだから」
「ごもっとも」
賢そうな正論で返されて、藍は笑いながらうなずいた。
ふと足首にずきりと鋭い痛みを感じて、少し歩くスピードが落ちた。桃真も歩幅をさりげなく合わせながら心配そうな顔で覗き込んでくる。
「足が痛くて。ごめん、桃真。あっち着いたら絆創膏貼るから心配しないでいいよ」
靴擦れだとわかったらしく、明らかに桃真の頬が緩んだ。それでいながら憎まれ口を叩いてくる。
「慣れないもの履いてくるからだ」
「二、三回履いたんだけどな〜。毎回靴擦れ」
すると、桃真が急に不安そうな口調になった。
「その二、三回は・・・・・・」
「普通に友達と遊びに行ったとき。なに、嫉妬してるの?」
蘭と付き合い始めたのは、一年生の春。しかし、初デートはなんやかんやと秋まで伸ばされていた。サンダルを秋に履くのはなかなか珍しいだろう。
にやっと意地悪に笑うと、桃真がそっぽを向いた。
「・・・・・・してない」
「強がり」
「相生さんよりはマシだろ」
またそれ・・・・・・。
「・・・・・・これなんて書いてるの? V・・・・・・ゔぉ?」
さっと桃真のTシャツの文字に話題をすり替えるも、筆記体で書かれているため、英語脳が弱い藍は一瞬で言葉に詰まった。
桃真はちょっと考えて、それから曖昧に答えた。
「え? あ〜、なんだっけ。なんか、どっかの外国語。ヨーロッパだったかな? 狐って意味らしい」
「らしいって。他人事だね」
「琥珀に買ってもらったから・・・・・・」
「はぁあ?」
他人に買ってもらったからあまり思い入れはない、と言いたいのだろうけど。
いやいやいや、そうじゃないだろう。
「えっ他の女に買ってもらった服をデートで着てくるって根性ヤバ」
人間性疑うわとこれみよがしにため息をつけば、桃真はすぐに自分の失言に気づいたらしい。明らかに動きがぎこちなくなった。
「やっ、いやいやいや、でも俺人間じゃなくて妖狐だし・・・・・・」
ぎろっと睨む。
「・・・・・・いやっ、違う。琥珀は幼馴染だから・・・・・・」
知ってる。すっごい知ってる。
藍とて別に琥珀は疑っていない。が、違うのだ。そういうことじゃないのだ。
なんでそんなに言い訳するかな〜。
「・・・・・・ちょっと来て」
タイミングよく目に雑貨店が移った。商品が一つ一つ洗練されており、藍も何度か行ったことのある店だ。今使っているペンケースはここで買ったもの。
桃真の腕をがしっと掴んで引っ張る。桃真は恐怖を感じたのか、じたばたと暴れ出した。
「えちょっ、なんだよ、りん、リンチ?」
失礼な。こんなか弱い女子になにができるってんだ。ったく。
「違う!」
有無を言わさず入店。店内はそれほど広いわけではなくこぢんまりとしているが、品揃えは豊富だ。あちこちにかけられ静かな雰囲気を醸し出す観葉植物は、店主の趣味なのだろう。
「私も桃真になんか買う」
宣言すると、ぱっと桃真が目を見開いた。たちまち顔が輝き出す。
「えっ・・・・・・いいのか?」
「いいよ。予約の時間より早く着く予定だったから時間も大丈夫だし」
ん〜・・・・・・どうしようかな。なににしよう。
ついカッとなって入ってしまったはいいものの、見切り発車すぎた。なにか目的の商品があって引っ張ってきたわけではないのだ。かといって今更止めるとも言いにくい。
困った様子を取り繕いながら、ぶらぶらと店内を見て回る藍の後ろを、桃真がついて歩く。
「あっ!」
つい大きな声が出た。
目に入ったのは、狐のお面をかたどった小さなキーホルダー。金属製で、鼻の部分がつんととんがった立体的なものだ。金色、銀色、そしてうっすらとピンクがかったもの。尻尾をかたどったファーが一緒についている。おしゃれで小ぶりなので、どこにでもつけることができそうだ。
「桃真! これ、どう?」
「狐大好きじゃん・・・・・・」
一目見て、桃真は苦笑した。
「だってどうせならさ。嫌?」
ぶんぶんと首を振る。
「嫌じゃない。だって、相生さんが買ってくれるんだろ?」
「奢りだから?」
「そうじゃなくて・・・・・・」
桃真の顔が朱に染まる。言わせるなとでも言いたげに、桃真が睨んできた。はいはいわかってるってば。そう言ってくれなきゃ、困るからなぁ。
「ごめんって。じゃあ買おうよ。桃真だからピンクね。私は銀色買おう」
藍色がないのは少し残念だが、まあそれくらいなら妥協してもいいだろう。
流れるように色を振った藍。そのまま留まることなくレジへ向かおうとするが、桃真が止めに入った。
「えっ待って。なんで俺ピンクなの?」
「桃ってピンクじゃん」
「なるほど」
ピンクの狐にはピンクのファーが、銀色の狐には白いファーが添えられている。今度こそさっとレジに持っていって会計を済ませた。
「じゃあ行こうか。桃真が気が利かないせいで、変な寄り道しちゃった」
責任を押し付けられ、桃真は不満げだ。
「相生さんが変に意地張るから・・・・・・あれ? これって・・・・・・しっ、と、されてるの?」
みるみる顔が崩れていく。
「違うって。ただ一応、彼女らしいことはしてあげようかなって思って。変な意味じゃないから! って聞いてる? ちょっと。ちょっと?」
私の心の中にはまだ蘭がいるんだから。彼のために、友達のために彼女を演じなければいけないから、入ったのだ。
と、横の桃真を見上げるも・・・・・・
応答なし。
ぐだぐだに崩れた顔だけが見えた。
「あーあーあーもう、ほんと、早く行くよ!」
藍は呆れて、足の動きを早めた。
***
夏休みも中盤となった昼下がり。藍は、オフショルダーのワンピースに身を包んでいた。夏といえばの麦わら帽子も一緒である。足元は華奢なサンダルなので、あまり大きな動きはできない。その上あまり履き慣れていないので、すでに足に痛みも感じていた。
鳥居にもたれ、空を眺める桃真が目に入る。なにやら書かれた黒のTシャツとストレートパンツと、シンプルな出立ちだ。大きめのトートバックを持っている。実は少し、遅刻。
「あ、相生さん!」
こちらの姿を認めるなり、ぶんぶんと大きく手を振ってくる。子供か! とツッコみたくなるほどのオーバーリアクションである。
「ごめん、待った?」
これはもう、こういうときの定型分である。で、これの答えは、もちろん・・・・・・
「ああ、まあ十分くらいかな」
「違うっ」
身を乗り出してまで期待した分、肩透かしを食らってこけそうになった。そんな藍に、桃真がポケットからスマホを取り出して慌て始める。必死にスワイプしているので、多分メッセージを遡っているのだろう。
「えっ? え、俺間違えた? ごめん、集合何時だっけ」
「違うってば、そうじゃなくて。こういうときはさ、気を遣って待ってないよって言うものでしょうが」
「あ! そういうことなのか。悪い。いや、待ったとは言え十分だし俺家が隣だし、気にしないで欲しい」
「気にしないけど」
「しないんだね」
次は桃真がこけそうになっている。うん、今日もノリ良し。
「行こっか?」
「ああ。・・・・・・美容院って俺も行っていいの?」
不安げに桃真がつぶやいた。
いつだったか・・・・・・夏休みに入る少し前だったと思う。ひょんなことから桃真の髪型の話になり、長く伸びた前髪について話したことがある。そのとき、相手の目がよく見えない、というのは話す上でかなり不安だと桃真にそう言うと、彼は情けなさそうに頭をかいたのだ。考えたこと、なかった、と。
そういえば以前琥珀も、体の手入れにまで手が回らなかったと言っていた。それと同じなのだろう。
だから今日、桃真をいつも行っている美容院に連れて行くことにした。
え? 初デートで行くような場所じゃないって? ・・・・・・うるさい。
「いいと思うよ。予約したときには別に嫌がられてた気はしなかったし」
「なら、いいけど。美容院なんて初めてだから。生まれた頃から毛繕いは自分でしてたし」
毛繕いって・・・・・・とツッコむより先にふと、不安になった。
「え、ねえ、余計なお世話じゃないよね? 無理矢理行かせてるつもりじゃないから、行きたくなかったら言ってよ?」
「気にしなくていい。俺、そういうときはちゃんと言うから大丈夫。相生さんと違って」
いたずらっぽく返されて、藍は少し安心しながらも不満げに頬を膨らませ、桃真をにらむ。
「なによ」
「だって、結局一回も泣いてくれないし」
見上げた横顔は、拗ねたような表情を浮かべていた。
「元カレが可愛い子と歩いてるの目撃したら泣くかも」
「・・・・・・それはそれでショック。まだ彼に未練があるってこと?」
桃真がしばらく考え込んでからうなった。
「嘘嘘。ごめんって。もう吹っ切れてるよ」
「なら、いいけど・・・・・・」
「どんな感じになるかなぁ。桃真って普通にイケメンだし」
「やめろよ・・・・・・」
桃真の前に回り込み、ひょいっと彼の前髪を持ち上げてのぞきこむと、わかりやすく赤くなった。
「うわぁ真っ赤。もしかしてさ、自分の熱で日焼けしちゃうんじゃない?」
「するわけないだろ。紫外線が原因なんだから」
「ごもっとも」
賢そうな正論で返されて、藍は笑いながらうなずいた。
ふと足首にずきりと鋭い痛みを感じて、少し歩くスピードが落ちた。桃真も歩幅をさりげなく合わせながら心配そうな顔で覗き込んでくる。
「足が痛くて。ごめん、桃真。あっち着いたら絆創膏貼るから心配しないでいいよ」
靴擦れだとわかったらしく、明らかに桃真の頬が緩んだ。それでいながら憎まれ口を叩いてくる。
「慣れないもの履いてくるからだ」
「二、三回履いたんだけどな〜。毎回靴擦れ」
すると、桃真が急に不安そうな口調になった。
「その二、三回は・・・・・・」
「普通に友達と遊びに行ったとき。なに、嫉妬してるの?」
蘭と付き合い始めたのは、一年生の春。しかし、初デートはなんやかんやと秋まで伸ばされていた。サンダルを秋に履くのはなかなか珍しいだろう。
にやっと意地悪に笑うと、桃真がそっぽを向いた。
「・・・・・・してない」
「強がり」
「相生さんよりはマシだろ」
またそれ・・・・・・。
「・・・・・・これなんて書いてるの? V・・・・・・ゔぉ?」
さっと桃真のTシャツの文字に話題をすり替えるも、筆記体で書かれているため、英語脳が弱い藍は一瞬で言葉に詰まった。
桃真はちょっと考えて、それから曖昧に答えた。
「え? あ〜、なんだっけ。なんか、どっかの外国語。ヨーロッパだったかな? 狐って意味らしい」
「らしいって。他人事だね」
「琥珀に買ってもらったから・・・・・・」
「はぁあ?」
他人に買ってもらったからあまり思い入れはない、と言いたいのだろうけど。
いやいやいや、そうじゃないだろう。
「えっ他の女に買ってもらった服をデートで着てくるって根性ヤバ」
人間性疑うわとこれみよがしにため息をつけば、桃真はすぐに自分の失言に気づいたらしい。明らかに動きがぎこちなくなった。
「やっ、いやいやいや、でも俺人間じゃなくて妖狐だし・・・・・・」
ぎろっと睨む。
「・・・・・・いやっ、違う。琥珀は幼馴染だから・・・・・・」
知ってる。すっごい知ってる。
藍とて別に琥珀は疑っていない。が、違うのだ。そういうことじゃないのだ。
なんでそんなに言い訳するかな〜。
「・・・・・・ちょっと来て」
タイミングよく目に雑貨店が移った。商品が一つ一つ洗練されており、藍も何度か行ったことのある店だ。今使っているペンケースはここで買ったもの。
桃真の腕をがしっと掴んで引っ張る。桃真は恐怖を感じたのか、じたばたと暴れ出した。
「えちょっ、なんだよ、りん、リンチ?」
失礼な。こんなか弱い女子になにができるってんだ。ったく。
「違う!」
有無を言わさず入店。店内はそれほど広いわけではなくこぢんまりとしているが、品揃えは豊富だ。あちこちにかけられ静かな雰囲気を醸し出す観葉植物は、店主の趣味なのだろう。
「私も桃真になんか買う」
宣言すると、ぱっと桃真が目を見開いた。たちまち顔が輝き出す。
「えっ・・・・・・いいのか?」
「いいよ。予約の時間より早く着く予定だったから時間も大丈夫だし」
ん〜・・・・・・どうしようかな。なににしよう。
ついカッとなって入ってしまったはいいものの、見切り発車すぎた。なにか目的の商品があって引っ張ってきたわけではないのだ。かといって今更止めるとも言いにくい。
困った様子を取り繕いながら、ぶらぶらと店内を見て回る藍の後ろを、桃真がついて歩く。
「あっ!」
つい大きな声が出た。
目に入ったのは、狐のお面をかたどった小さなキーホルダー。金属製で、鼻の部分がつんととんがった立体的なものだ。金色、銀色、そしてうっすらとピンクがかったもの。尻尾をかたどったファーが一緒についている。おしゃれで小ぶりなので、どこにでもつけることができそうだ。
「桃真! これ、どう?」
「狐大好きじゃん・・・・・・」
一目見て、桃真は苦笑した。
「だってどうせならさ。嫌?」
ぶんぶんと首を振る。
「嫌じゃない。だって、相生さんが買ってくれるんだろ?」
「奢りだから?」
「そうじゃなくて・・・・・・」
桃真の顔が朱に染まる。言わせるなとでも言いたげに、桃真が睨んできた。はいはいわかってるってば。そう言ってくれなきゃ、困るからなぁ。
「ごめんって。じゃあ買おうよ。桃真だからピンクね。私は銀色買おう」
藍色がないのは少し残念だが、まあそれくらいなら妥協してもいいだろう。
流れるように色を振った藍。そのまま留まることなくレジへ向かおうとするが、桃真が止めに入った。
「えっ待って。なんで俺ピンクなの?」
「桃ってピンクじゃん」
「なるほど」
ピンクの狐にはピンクのファーが、銀色の狐には白いファーが添えられている。今度こそさっとレジに持っていって会計を済ませた。
「じゃあ行こうか。桃真が気が利かないせいで、変な寄り道しちゃった」
責任を押し付けられ、桃真は不満げだ。
「相生さんが変に意地張るから・・・・・・あれ? これって・・・・・・しっ、と、されてるの?」
みるみる顔が崩れていく。
「違うって。ただ一応、彼女らしいことはしてあげようかなって思って。変な意味じゃないから! って聞いてる? ちょっと。ちょっと?」
私の心の中にはまだ蘭がいるんだから。彼のために、友達のために彼女を演じなければいけないから、入ったのだ。
と、横の桃真を見上げるも・・・・・・
応答なし。
ぐだぐだに崩れた顔だけが見えた。
「あーあーあーもう、ほんと、早く行くよ!」
藍は呆れて、足の動きを早めた。
***