「ねえ、琥珀ちゃん」
「すみません忙しいので」
「琥珀ちゃ・・・・・・」
「勉強しなくていいんですか? それとも賢いマウントですか?」
「こはk」
「通してください、邪魔です」
「琥珀ちゃん、ちょっといい?」
「・・・・・・」
ついに無視である。
桃真と付き合い始めて一ヶ月。藍と琥珀の関係は、落ちるところまで落ちていた。
確かにテスト前に勉強してるとき声をかけたのは悪かったと思う。それは猛反省してる。でも、広い廊下でわざわざ私を押し退けて行くことなくない⁉︎ そこまでなの? そこまで深刻なの? 私たちの間柄。
「琥珀ちゃん、あのね。とう・・・・・・大神くんとはそこまであの、親密な関係ってわけじゃないの。ごめんね。ただ、さ、あの、えぇと」
無視されているのをいいことに、なにかを続けようとして、それから今の藍が言う言葉は全て琥珀には届かず、苛立たせるだけだと気づいて口をつぐむ。
もし──もしも。
蘭が誰かと付き合って。その相手に友達になろうよとか、もしくは蘭とはなにもないのとか。そうやって話しかけられても、藍に、快く応じられる自信はなかった。全部嘘だと思うだろうし、それどころか彼女を憎んでしまうだろう。
「そういう態度取っちゃうのも・・・・・・嫉妬、するのも、わか・・・・・・る。けど、私は・・・・・・」
言ってしまってから、少し切り込みすぎたかと焦っていると、琥珀がきっと顔を上げた。藍を射抜くような、厳しい瞳。いかにも不機嫌そうな眼差しだ。
「誰が、嫉妬ですかあんなやつに」
「・・・・・・え?」
え? あんなやつに嫉妬しない、ってことですか?
琥珀の言葉が消化不良となり、変に引っかかる。
「嫉妬なんてしてません。どっちかといえば私は相生さんの方が」
「ん?」
おかしな方向に話がいっていないか。いや、おかしいというより想定から大幅にずれている返答だ。
「待って待って、どういうこと?」
聞き返すと、琥珀はしばらく黙った。なにかを考えているようだった。
「・・・・・・それを話すには、いろいろカミングアウトしなければなりません」
「あ・・・・・・」
カミングアウト、という単語からは、だいたいの内容が想像できる気がする。
「ちなみにあなたが思っているようなことではないです。もっとぶっ飛んでるから」
「そっか。じゃあ、放課後・・・・・・どこ行こう」
あまり人には聞かれたくない話だろう。体育館裏も信用はできない。
「稲荷神社とかどうですか」
「あ、琥珀ちゃんも稲荷神社好きなんだ」
桃真と話したあの日が思い起こされる。そういえば、なんで桃真はあそこに呼び出したんだろう。
「いえ。ただ、話す上であそこが好都合なので」
「ふぅん・・・・・・?」
いまいちわかったような、わからないような。
稲荷神社で都合がいいってどういうことなんだろう。謎を抱えたまま、藍は運命の放課後を迎えた。
「すみません忙しいので」
「琥珀ちゃ・・・・・・」
「勉強しなくていいんですか? それとも賢いマウントですか?」
「こはk」
「通してください、邪魔です」
「琥珀ちゃん、ちょっといい?」
「・・・・・・」
ついに無視である。
桃真と付き合い始めて一ヶ月。藍と琥珀の関係は、落ちるところまで落ちていた。
確かにテスト前に勉強してるとき声をかけたのは悪かったと思う。それは猛反省してる。でも、広い廊下でわざわざ私を押し退けて行くことなくない⁉︎ そこまでなの? そこまで深刻なの? 私たちの間柄。
「琥珀ちゃん、あのね。とう・・・・・・大神くんとはそこまであの、親密な関係ってわけじゃないの。ごめんね。ただ、さ、あの、えぇと」
無視されているのをいいことに、なにかを続けようとして、それから今の藍が言う言葉は全て琥珀には届かず、苛立たせるだけだと気づいて口をつぐむ。
もし──もしも。
蘭が誰かと付き合って。その相手に友達になろうよとか、もしくは蘭とはなにもないのとか。そうやって話しかけられても、藍に、快く応じられる自信はなかった。全部嘘だと思うだろうし、それどころか彼女を憎んでしまうだろう。
「そういう態度取っちゃうのも・・・・・・嫉妬、するのも、わか・・・・・・る。けど、私は・・・・・・」
言ってしまってから、少し切り込みすぎたかと焦っていると、琥珀がきっと顔を上げた。藍を射抜くような、厳しい瞳。いかにも不機嫌そうな眼差しだ。
「誰が、嫉妬ですかあんなやつに」
「・・・・・・え?」
え? あんなやつに嫉妬しない、ってことですか?
琥珀の言葉が消化不良となり、変に引っかかる。
「嫉妬なんてしてません。どっちかといえば私は相生さんの方が」
「ん?」
おかしな方向に話がいっていないか。いや、おかしいというより想定から大幅にずれている返答だ。
「待って待って、どういうこと?」
聞き返すと、琥珀はしばらく黙った。なにかを考えているようだった。
「・・・・・・それを話すには、いろいろカミングアウトしなければなりません」
「あ・・・・・・」
カミングアウト、という単語からは、だいたいの内容が想像できる気がする。
「ちなみにあなたが思っているようなことではないです。もっとぶっ飛んでるから」
「そっか。じゃあ、放課後・・・・・・どこ行こう」
あまり人には聞かれたくない話だろう。体育館裏も信用はできない。
「稲荷神社とかどうですか」
「あ、琥珀ちゃんも稲荷神社好きなんだ」
桃真と話したあの日が思い起こされる。そういえば、なんで桃真はあそこに呼び出したんだろう。
「いえ。ただ、話す上であそこが好都合なので」
「ふぅん・・・・・・?」
いまいちわかったような、わからないような。
稲荷神社で都合がいいってどういうことなんだろう。謎を抱えたまま、藍は運命の放課後を迎えた。