2月1日から約4ヶ月間の基礎訓練を受けた後は適正検査の結果により操縦・偵察・要務に分けられて、それぞれの配属先が発表される。
僕は純子ちゃんとの約束があったのでヒロと同じ操縦に志望したが、土浦で毎日のように飛行機を見ていると飛行機乗りになるのが当然のような気になるのか「操縦」を第1志望にする者が多く……
坂本くんや島田くんもそうしたそうだが、もし人数が多すぎて偵察になったり配属先がヒロと離れてしまったら……と不安で堪らなかった。
因みに平井くんだけは、土浦に残れる可能がある要務要員を志望していた。
5月のある日……
いつもと違って眠れない夜に同じく起きていたヒロと厠に行った後、二人で夜空を見上げた。
「北斗七星がキレイだなぁ」
「北斗七星? どこにあるんや?」
「あの北の空に柄杓形に並んでいる7つの星だよ。おおぐま座の腰からしっぽの部分にあたるんだ~今は午後10時頃だから、かなり高い位置で見やすいはずだよ?」
「あ~あれか?」
「因みに、北斗七星の柄杓の先端の2つの星を結んだ線を、開いてる方向に5倍伸ばした所にある星が北極星だよ。他の星は時間が経つと周って違う場所に行っちゃうけど、北極星だけはずっと同じ場所にあるんだ」
「へ~源次って星に詳しいんやな、初めて知ったわ……北極星はどこにおっても動かんのやったら、灯台みたいに光って行く先を教えてくれる道標みたいやな」
成る程……とヒロの言葉に感心していた時、後ろから聞き慣れた声がした。
「そうだな……北極星は皆が彷徨う暗闇の中の一筋の光、希望の星だ」
「でもって北斗七星は北極星の位置を教えてくれる相棒みたいですよね? ついでに流れ星も見えるかな~島田くん」
「そんな簡単に見えるもんじゃねえ」
その声の主は同じく起きてきた坂本くんと平井くんと島田くんだった。
「さすが坂本くんはロマンチストだね~平井くんと島田くんは流れ星、見たことあるの?」
「二人ともないんです! もし見られたら願い事言えば叶うんですよね?」
「俺あるで? 昔、小っさい時に」
「えっいいな~もし見られたら僕、由香里さんとずっと一緒にいられますようにってお願いしようと思って……」
「あれっ? 今の流れ星じゃね? お前の後ろに……」
「えっほんと? じゃあ僕の願い叶うかな?」
「すごい……僕も初めて見たよ~平井くんの願い、叶うといいね」
「全く……一目惚れしてからお前、浮ついてばかりだぞ」
「いいや、一目惚れなんて簡単なものじゃないよ……僕は由香里さんに会った瞬間、運命を感じたんだ! もし要務になれなかったら駆け落ちしたい位にね」
「おいおい、脱走なんてしたら軍法会議にかけられて銃殺されるで?」
「冗談です~」
「でも平井の気持ちは分からんでもないな……俺は家族や恋人が守れるなら喜んで命を捧げるよ」
「またまた坂本くんは、いつもカッコいいんだから~」
その後僕達は就寝し、何度目かの朝を迎えたが……とうとう配属先が発表される日になった。
土浦航空隊で基礎教程を終えた14期飛行予備学生の中で操縦専修に選ばれたものは中間練習機教程へと進み、出水・矢田部・第2美保・博多・鹿島・北浦・詫間航空隊へと分かれてそれぞれ移動になるが……
どんな確率の奇跡か、平井くん以外の四人揃って土浦から一番近い鹿島航空隊への配属となった。
僕はヒロと一緒な事に安堵し、「お前ら……ここまで来ると腐れ縁だな」と島田くんが迷惑そうながらも少し照れていたのが嬉しかった。
そして、最後にもう一つ奇跡が起きた。
名前が呼ばれていなかった平井くんが土浦海軍予科練航空隊の心理適性部へ配属され、心理検査を担当することになったのだ。
大学で心理学を学んでいたため、足りない要員の補填で入れられたらしい。
そこでは飛行士を操縦と整備とに分ける心理テストを行なったり、操縦訓練の模型機で行うパイロットの適性判断テストをするそうで……
平井くんは星に願った通り、土浦にいられることになった。
土浦での最後の上陸の日、僕達は沢山の学生らとともに指定食堂にお世話になった挨拶に行った。
「今日も美味かったで~ごちそうさん」
いつもの挨拶の後にヒロが代表で鹿島に移ることを伝えると……由香里ちゃんはポロポロ泣き出してしまった。
「そんな……6月になったらホタルが沢山見られるから一緒に見に行きたかったのに……でも鹿島なら近いほうだし、きっとまた会いに来て下さいね? 約束ですよ?」
「分かった約束じゃ、今までおおきにな~あと和男……今まで手紙を届けてくれて本当にありがとう……お前今度誕生日やし、お礼に何か欲しいものないか?」
「ん~ないよ? だって『欲しがりません、勝つまでは』だもんね!」
その健気な姿は浩くんを想起させた。
「よっしゃ、欲しがらんかった代わりに今度会う時にタダでええもん持ってくるわ~楽しみにしとけ」
帰り際、坂本くんは爽やかな笑顔で締めの挨拶をした。
「トミさん本当にお世話になりました! 由香里ちゃんもありがとう! 和男くんも元気でな! 大きくなったらうちの大学入れよ~面白い事になるから」
そう言いながら同じく慶應大出身の学生達と顔を見合わせて笑う坂本くんの謎の言葉が気になったが……
平井くんが由香里ちゃんのヒロと話す時の態度が自分の時と差があるのを気にして落ち込んでいるのを慰めるのに手一杯で、それどころじゃなかった。
「今まで、本当にありがとうございました!」
僕達は5月25日に退隊した後は、それぞれの道に配属される……
土浦と鹿島は車で一時間以上かかる場所なので、五人揃って余暇を過ごすことは中々難しいかもと思うとなんだか寂しかった。
「いい事考えた! 五人で人差し指と中指の2本を円になってくっつけると星の形になるよ?」
僕達は別れる最後の日……お花見の桜の時のように円になって、星を作った。
みんないい笑顔で……これからどんな暗闇の時代になっても五人で作った「希望の星」は、いつまでも道標になる気がしたんだ。
僕は純子ちゃんとの約束があったのでヒロと同じ操縦に志望したが、土浦で毎日のように飛行機を見ていると飛行機乗りになるのが当然のような気になるのか「操縦」を第1志望にする者が多く……
坂本くんや島田くんもそうしたそうだが、もし人数が多すぎて偵察になったり配属先がヒロと離れてしまったら……と不安で堪らなかった。
因みに平井くんだけは、土浦に残れる可能がある要務要員を志望していた。
5月のある日……
いつもと違って眠れない夜に同じく起きていたヒロと厠に行った後、二人で夜空を見上げた。
「北斗七星がキレイだなぁ」
「北斗七星? どこにあるんや?」
「あの北の空に柄杓形に並んでいる7つの星だよ。おおぐま座の腰からしっぽの部分にあたるんだ~今は午後10時頃だから、かなり高い位置で見やすいはずだよ?」
「あ~あれか?」
「因みに、北斗七星の柄杓の先端の2つの星を結んだ線を、開いてる方向に5倍伸ばした所にある星が北極星だよ。他の星は時間が経つと周って違う場所に行っちゃうけど、北極星だけはずっと同じ場所にあるんだ」
「へ~源次って星に詳しいんやな、初めて知ったわ……北極星はどこにおっても動かんのやったら、灯台みたいに光って行く先を教えてくれる道標みたいやな」
成る程……とヒロの言葉に感心していた時、後ろから聞き慣れた声がした。
「そうだな……北極星は皆が彷徨う暗闇の中の一筋の光、希望の星だ」
「でもって北斗七星は北極星の位置を教えてくれる相棒みたいですよね? ついでに流れ星も見えるかな~島田くん」
「そんな簡単に見えるもんじゃねえ」
その声の主は同じく起きてきた坂本くんと平井くんと島田くんだった。
「さすが坂本くんはロマンチストだね~平井くんと島田くんは流れ星、見たことあるの?」
「二人ともないんです! もし見られたら願い事言えば叶うんですよね?」
「俺あるで? 昔、小っさい時に」
「えっいいな~もし見られたら僕、由香里さんとずっと一緒にいられますようにってお願いしようと思って……」
「あれっ? 今の流れ星じゃね? お前の後ろに……」
「えっほんと? じゃあ僕の願い叶うかな?」
「すごい……僕も初めて見たよ~平井くんの願い、叶うといいね」
「全く……一目惚れしてからお前、浮ついてばかりだぞ」
「いいや、一目惚れなんて簡単なものじゃないよ……僕は由香里さんに会った瞬間、運命を感じたんだ! もし要務になれなかったら駆け落ちしたい位にね」
「おいおい、脱走なんてしたら軍法会議にかけられて銃殺されるで?」
「冗談です~」
「でも平井の気持ちは分からんでもないな……俺は家族や恋人が守れるなら喜んで命を捧げるよ」
「またまた坂本くんは、いつもカッコいいんだから~」
その後僕達は就寝し、何度目かの朝を迎えたが……とうとう配属先が発表される日になった。
土浦航空隊で基礎教程を終えた14期飛行予備学生の中で操縦専修に選ばれたものは中間練習機教程へと進み、出水・矢田部・第2美保・博多・鹿島・北浦・詫間航空隊へと分かれてそれぞれ移動になるが……
どんな確率の奇跡か、平井くん以外の四人揃って土浦から一番近い鹿島航空隊への配属となった。
僕はヒロと一緒な事に安堵し、「お前ら……ここまで来ると腐れ縁だな」と島田くんが迷惑そうながらも少し照れていたのが嬉しかった。
そして、最後にもう一つ奇跡が起きた。
名前が呼ばれていなかった平井くんが土浦海軍予科練航空隊の心理適性部へ配属され、心理検査を担当することになったのだ。
大学で心理学を学んでいたため、足りない要員の補填で入れられたらしい。
そこでは飛行士を操縦と整備とに分ける心理テストを行なったり、操縦訓練の模型機で行うパイロットの適性判断テストをするそうで……
平井くんは星に願った通り、土浦にいられることになった。
土浦での最後の上陸の日、僕達は沢山の学生らとともに指定食堂にお世話になった挨拶に行った。
「今日も美味かったで~ごちそうさん」
いつもの挨拶の後にヒロが代表で鹿島に移ることを伝えると……由香里ちゃんはポロポロ泣き出してしまった。
「そんな……6月になったらホタルが沢山見られるから一緒に見に行きたかったのに……でも鹿島なら近いほうだし、きっとまた会いに来て下さいね? 約束ですよ?」
「分かった約束じゃ、今までおおきにな~あと和男……今まで手紙を届けてくれて本当にありがとう……お前今度誕生日やし、お礼に何か欲しいものないか?」
「ん~ないよ? だって『欲しがりません、勝つまでは』だもんね!」
その健気な姿は浩くんを想起させた。
「よっしゃ、欲しがらんかった代わりに今度会う時にタダでええもん持ってくるわ~楽しみにしとけ」
帰り際、坂本くんは爽やかな笑顔で締めの挨拶をした。
「トミさん本当にお世話になりました! 由香里ちゃんもありがとう! 和男くんも元気でな! 大きくなったらうちの大学入れよ~面白い事になるから」
そう言いながら同じく慶應大出身の学生達と顔を見合わせて笑う坂本くんの謎の言葉が気になったが……
平井くんが由香里ちゃんのヒロと話す時の態度が自分の時と差があるのを気にして落ち込んでいるのを慰めるのに手一杯で、それどころじゃなかった。
「今まで、本当にありがとうございました!」
僕達は5月25日に退隊した後は、それぞれの道に配属される……
土浦と鹿島は車で一時間以上かかる場所なので、五人揃って余暇を過ごすことは中々難しいかもと思うとなんだか寂しかった。
「いい事考えた! 五人で人差し指と中指の2本を円になってくっつけると星の形になるよ?」
僕達は別れる最後の日……お花見の桜の時のように円になって、星を作った。
みんないい笑顔で……これからどんな暗闇の時代になっても五人で作った「希望の星」は、いつまでも道標になる気がしたんだ。