コンコン、というノックの音で目が覚めた。小西はまだ寝ぼけた頭を必死に叩き起こしながら、
「誰か。」
と尋ねた。すると、
「石原船務長です。」
と返ってきた。そうか、俺は艦長室に戻って日誌も書かんと寝てしまっていたのか。そう小西は思いながら
「入れ。」
と言った。
「失礼します。」
と昨日の出港前と同じように石原が入って来た。そうか、母港を出てからかなり時間が経ったように思えたがまだ一日しか経っていないのか。そんなことを考えながら
「どうしたのかね。」
そう問うと
「はっ、阿部が提案したことについて…お話があって参りました。」
と言った。
「そうか…まぁ、そこに掛け給え。」
と言い、石原は失礼しますと呟きながら小西が用意した折りたたみ座椅子に腰をかけた。
「それで…内容を聞こうじゃないか。」
そう言いながら小西は、ベッドを椅子に直そうとしたが、そのようなスペースが艦長室に残されていなかったため、仕方なくベッドに座った。小西が座ったのを見届けると、石原は
「失礼なことと思いますが、すいません。正直に申し上げさせて頂きます。正直、自分は人命を救う為に戦闘に介入するかどうかという判断を艦長という『人』一人に背負わせるのは間違っていると思います。」
そこまで聞いて小西はほぅ、と声を上げた。防衛学校では立場が上の者の命令が絶対、と教えられる軍人において、この考えが出てくることは極めて異例だった。向かい合う小西の反応を見て石原は続ける。
「ですから、自分は乗組員全員に戦闘に介入するべきかについて投票を行うべきと考えます。…乗組員全員で物事を決定することによって、選ばれた結論がもし間違っていても、艦長一人がその間違いを背負うわけではなく、全員でその間違いを背負うことになる。それが、大事なんだと思います。人一人に背負わせること、それは違う…私はそう考えます。」
石原の話を聞いて小西は柄にもなくなんていい話だ、と思った。小西は昔からのことを振り返っていた。今まで、自分で決定を下して、命令をして、間違いをするたびに、失敗をするたびに何度も様々な人から責められてきた。今回も俺が一人で決断して、間違えたらまた責められるのか…
そう思っていたが、石原は今回の件は全員で決めようと。全員で決めて、全員でその決定を下した責任を背負おうと言ってきた。その言葉は、小西の迷いに迷って行き場を失っていた小西の心に間違いなく光を差させた。小西は一度目を閉じて深呼吸をして、言う。
「石原…ありがとう。おかげで俺の気持ちはだいぶ楽になった。お前がこうして言いにきてくれなかったら、また一人で悩んで一人で困っていただろう。だが、お前は俺に素晴らしい改善案をくれた。本当にありがとう。」
不意に艦長から全力で感謝された石原は恥ずかしそうに頭をポリポリと掻きながら
「いえ、艦長のお役に立てたようで何よりです。」
と言った。そして、石原が出て行って数分後、身だしなみを整え、小西は再び艦橋に上がった。艦橋メンバーに敬礼をされ、それに応じると、小西は艦長席のマイクを取って言った。
「全艦に告ぐ。こちら艦長の小西だ。先程、戦闘機があの土地の市民に攻撃を加えていた。それをモニターで見てた人も多いだろう。その様子を見て諸君らはなんと思ったのだろうか。『あの市民を守る為に我々が先頭に戦闘に介入すべき』と思った人や『このまま水面下に潜伏すべき』と思った人、いろいろいるだろう。…そこで私は今回、今後の本艦のとるべき行動を投票によって決める。選択肢は『戦闘に介入する』か『現状維持』かの2択だ。3分の2以上の票が入った方の行動を本艦はとることになるだろう。投票するものにおいては、投票用紙を各自が持つ小型タブレット端末に送信しておいた。それに回答してもらいたい。回答期限は翌日1500とする。以上だ。」
そう言い、小西はマイクをそっと元の場所に置いた。石原の方に視線を飛ばすと、優しく微笑んでいるようであった。小西はそれに頷いて返し、艦長席に深く腰掛ける。今回選択した内容は俺一人で決めたことではなく、乗組員全員で決めた事。そう思うと艦長としては失格だが、小西は少し気が楽になった。
数日後、投票が終了して、小西は艦長室で投票結果を確認していた。乗員は小西を含めて270人。その3分の2は180人。つまり、3分の2である180人をどちらかが越えると、それが本艦のとるべき行動、ということになる…そう思いながら小西は投票結果を確認した。
「介入派が181人、潜伏派が89人…」
たった一票の差。その一票で本艦が戦闘に介入する事が決まった。たった一票の差とはいえ、本艦が取るべき行動が決まったことに変わりはなかった。で、あるならば。そうと決まればやらなければいけない事がある。そして、その指示をする為に小西は再び艦橋に上がり、艦長席のマイクを取って言った。
「全艦に達する。こちら艦長の小西だ。投票を集計した結果、無回答なしで戦闘に介入する方針を選んだ乗組員が全体の3分の2を超えた。本当に僅差だったが、本艦は戦闘に介入する事をここに決定する。」
そう言うと、艦橋内がややざわついた。小西はさらに言葉を続ける。
「だが、戦闘に介入するならば、我々はしなければならないことがある。それは、本艦の両側面に描かれた『日本国航宙自衛隊のエンブレム』を抹消する事だ。…いや、艦側面のエンブレムだけではない。艦内にある、本艦が日本国航宙自衛隊所属であるとわかるものは、全て抹消しなければならない。我々は自衛隊の方針を破り、これから先制攻撃をしに行く。で、あれば母国、ひいては母星に迷惑をかけないようにするのが最善だろう…。」
そこまで言って、小西は言葉を詰まらせた。…俺たちはここで、地球に帰還する事を断念する…そう言ったもの同然だからだ。だが、小西は未練を振り切って、言葉を続けた。
「総員、協力して艦内各所のエンブレム等を抹消せよ。艦側面のエンブレムに関しては修理用の塗料で塗り潰す。技術科や船務科だけでなく、砲雷科も航海科も機関科も全員で成すべきことを成せ。以上だ。」
そう言い終わると小西は上を見上げた。艦長席の真上に天窓があるわけでもないが、それでも上を見ていないと余分なものが出てきそうだったからだ。やがて、それが収まると、小西は作業の準備に移った。
「技術科各員は塗料を持って待機!」
そう阿部に告げると、
「了!技術科各員、塗料を持ち作業の準備をせよ!」
と技術科員に指示を飛ばした。続いて桐原にも指示を出す。
「桐原、両舷バラスト排水!『しまなみ』、浮上!」
「ヨーソロー!両舷バラストタンク排水!」
艦体に大きな振動が響き渡り、艦が浮上を始めた。浮上していくにつれ、艦がやや左に傾いた。それに気づいた桐原がすかさず
「左舷スラスター始動!艦体、水平に!」
と言い、艦体を水平に修正した。数分後、「しまなみ」は波を割り、およそ1日ぶりに青空の元に姿を現した。
「艦内隔壁、全て開放。両舷乗艦口開け。全乗組員、エンブレム等抹消行動に移れ。」
そう言うと、両舷の乗艦口が開き、技術科や船務科、そしてその他の人員が塗料と自分の身体の倍はあろうかというペイントローラーを持ち、両舷のエンブレムを塗り潰しにかかった。そして、艦内でもエンブレムが描かれている廊下などではこちらでも塗り潰し作業が行われていた。そして数十分後、艦内、そして艦側面にある全てのエンブレムが塗り潰され、一つ、また一つと本艦の所属を示すものがなくなっていく。
小西は、胸元の「日本国航宙自衛隊」と書かれたワッペンをじっと見つめた。…これも、引き剥がさなければならない。そう思うと心に来るものがあった。苦楽を共にしてきたワッペンとの別れを偲びつつ艦橋乗組員を見渡した。皆、新たな決意を胸にテキパキと作業している。皆、過去を振り払って進んでいる。俺も、過去を見るのはやめよう。そう思い小西は胸元のワッペンを勢いよく引きちぎった。手元には胸にあったはずであるワッペンが握られていた。…これで、俺たちは本当に日本から、地球から存在が無くなったことになる。小西はいろいろな思いが込み上げてきて、少し上を向いた。やがて少し気持ちが落ち着いた小西は阿部と桐原、杉内に向かって
「阿部、『こくちょう』を収容。桐原、収容完了次第、第三戦速で陸地へ向け発進せよ。杉内、航行中は第一種戦闘配備を維持。対空、対潜、対水上警戒を厳とせよ。」
「『こくちょう』収容準備に入ります。左舷格納庫開け。『こくちょう』、本艦へ向け帰還します。」
「メインエンジン、及び補助エンジン、接続を切っていませんので、いつでも発進できます。」
「第一種戦闘配備了解。…砲雷科各位に告ぐ!総員、第一種戦闘配備!対空、対潜、対水上警戒を厳とせよ!」
阿部と桐原から報告が上がり、杉内が砲雷科に指示を出した。その様子に頷くと小西は正面の船窓の外へ視線を移した。…この世界を世界を救う為に戦闘に介入する選択をした、我々の選択に間違いがない事をどうか、神様。見守っていてください。そう祈っていると、虚空の一点がピカリと光った。それは、陸地を偵察していた小型偵察機「こくちょう」であった。だんだんその姿が大きくなっていったかと思うと、本艦の右舷を通り過ぎ、本艦の後方を大きく旋回して本艦の左舷に近づいた。そして、収容クレーンによって「こくちょう」はおよそ1日ぶりに母艦に帰還した。
「『こくちょう』、収容しました!左舷格納庫閉鎖確認!」
阿部からその報告を聞き、小西は桐原に視線を飛ばし、指示をする。
「桐原、メインエンジン及び補助エンジン接続、点火!『宇宙駆逐艦しまなみ』発進!」
「『しまなみ』発進!」
そう桐原が復唱するとエンジンノズルから火が吹き出す。
「進路051!第三戦速!」
「ヨーソロー!進路051!第三戦速!」
小西の指示を桐原が再び復唱し、艦を操る。
艦は水を切り裂いて進んだ。これから待ち受ける運命を知る事なく。
「誰か。」
と尋ねた。すると、
「石原船務長です。」
と返ってきた。そうか、俺は艦長室に戻って日誌も書かんと寝てしまっていたのか。そう小西は思いながら
「入れ。」
と言った。
「失礼します。」
と昨日の出港前と同じように石原が入って来た。そうか、母港を出てからかなり時間が経ったように思えたがまだ一日しか経っていないのか。そんなことを考えながら
「どうしたのかね。」
そう問うと
「はっ、阿部が提案したことについて…お話があって参りました。」
と言った。
「そうか…まぁ、そこに掛け給え。」
と言い、石原は失礼しますと呟きながら小西が用意した折りたたみ座椅子に腰をかけた。
「それで…内容を聞こうじゃないか。」
そう言いながら小西は、ベッドを椅子に直そうとしたが、そのようなスペースが艦長室に残されていなかったため、仕方なくベッドに座った。小西が座ったのを見届けると、石原は
「失礼なことと思いますが、すいません。正直に申し上げさせて頂きます。正直、自分は人命を救う為に戦闘に介入するかどうかという判断を艦長という『人』一人に背負わせるのは間違っていると思います。」
そこまで聞いて小西はほぅ、と声を上げた。防衛学校では立場が上の者の命令が絶対、と教えられる軍人において、この考えが出てくることは極めて異例だった。向かい合う小西の反応を見て石原は続ける。
「ですから、自分は乗組員全員に戦闘に介入するべきかについて投票を行うべきと考えます。…乗組員全員で物事を決定することによって、選ばれた結論がもし間違っていても、艦長一人がその間違いを背負うわけではなく、全員でその間違いを背負うことになる。それが、大事なんだと思います。人一人に背負わせること、それは違う…私はそう考えます。」
石原の話を聞いて小西は柄にもなくなんていい話だ、と思った。小西は昔からのことを振り返っていた。今まで、自分で決定を下して、命令をして、間違いをするたびに、失敗をするたびに何度も様々な人から責められてきた。今回も俺が一人で決断して、間違えたらまた責められるのか…
そう思っていたが、石原は今回の件は全員で決めようと。全員で決めて、全員でその決定を下した責任を背負おうと言ってきた。その言葉は、小西の迷いに迷って行き場を失っていた小西の心に間違いなく光を差させた。小西は一度目を閉じて深呼吸をして、言う。
「石原…ありがとう。おかげで俺の気持ちはだいぶ楽になった。お前がこうして言いにきてくれなかったら、また一人で悩んで一人で困っていただろう。だが、お前は俺に素晴らしい改善案をくれた。本当にありがとう。」
不意に艦長から全力で感謝された石原は恥ずかしそうに頭をポリポリと掻きながら
「いえ、艦長のお役に立てたようで何よりです。」
と言った。そして、石原が出て行って数分後、身だしなみを整え、小西は再び艦橋に上がった。艦橋メンバーに敬礼をされ、それに応じると、小西は艦長席のマイクを取って言った。
「全艦に告ぐ。こちら艦長の小西だ。先程、戦闘機があの土地の市民に攻撃を加えていた。それをモニターで見てた人も多いだろう。その様子を見て諸君らはなんと思ったのだろうか。『あの市民を守る為に我々が先頭に戦闘に介入すべき』と思った人や『このまま水面下に潜伏すべき』と思った人、いろいろいるだろう。…そこで私は今回、今後の本艦のとるべき行動を投票によって決める。選択肢は『戦闘に介入する』か『現状維持』かの2択だ。3分の2以上の票が入った方の行動を本艦はとることになるだろう。投票するものにおいては、投票用紙を各自が持つ小型タブレット端末に送信しておいた。それに回答してもらいたい。回答期限は翌日1500とする。以上だ。」
そう言い、小西はマイクをそっと元の場所に置いた。石原の方に視線を飛ばすと、優しく微笑んでいるようであった。小西はそれに頷いて返し、艦長席に深く腰掛ける。今回選択した内容は俺一人で決めたことではなく、乗組員全員で決めた事。そう思うと艦長としては失格だが、小西は少し気が楽になった。
数日後、投票が終了して、小西は艦長室で投票結果を確認していた。乗員は小西を含めて270人。その3分の2は180人。つまり、3分の2である180人をどちらかが越えると、それが本艦のとるべき行動、ということになる…そう思いながら小西は投票結果を確認した。
「介入派が181人、潜伏派が89人…」
たった一票の差。その一票で本艦が戦闘に介入する事が決まった。たった一票の差とはいえ、本艦が取るべき行動が決まったことに変わりはなかった。で、あるならば。そうと決まればやらなければいけない事がある。そして、その指示をする為に小西は再び艦橋に上がり、艦長席のマイクを取って言った。
「全艦に達する。こちら艦長の小西だ。投票を集計した結果、無回答なしで戦闘に介入する方針を選んだ乗組員が全体の3分の2を超えた。本当に僅差だったが、本艦は戦闘に介入する事をここに決定する。」
そう言うと、艦橋内がややざわついた。小西はさらに言葉を続ける。
「だが、戦闘に介入するならば、我々はしなければならないことがある。それは、本艦の両側面に描かれた『日本国航宙自衛隊のエンブレム』を抹消する事だ。…いや、艦側面のエンブレムだけではない。艦内にある、本艦が日本国航宙自衛隊所属であるとわかるものは、全て抹消しなければならない。我々は自衛隊の方針を破り、これから先制攻撃をしに行く。で、あれば母国、ひいては母星に迷惑をかけないようにするのが最善だろう…。」
そこまで言って、小西は言葉を詰まらせた。…俺たちはここで、地球に帰還する事を断念する…そう言ったもの同然だからだ。だが、小西は未練を振り切って、言葉を続けた。
「総員、協力して艦内各所のエンブレム等を抹消せよ。艦側面のエンブレムに関しては修理用の塗料で塗り潰す。技術科や船務科だけでなく、砲雷科も航海科も機関科も全員で成すべきことを成せ。以上だ。」
そう言い終わると小西は上を見上げた。艦長席の真上に天窓があるわけでもないが、それでも上を見ていないと余分なものが出てきそうだったからだ。やがて、それが収まると、小西は作業の準備に移った。
「技術科各員は塗料を持って待機!」
そう阿部に告げると、
「了!技術科各員、塗料を持ち作業の準備をせよ!」
と技術科員に指示を飛ばした。続いて桐原にも指示を出す。
「桐原、両舷バラスト排水!『しまなみ』、浮上!」
「ヨーソロー!両舷バラストタンク排水!」
艦体に大きな振動が響き渡り、艦が浮上を始めた。浮上していくにつれ、艦がやや左に傾いた。それに気づいた桐原がすかさず
「左舷スラスター始動!艦体、水平に!」
と言い、艦体を水平に修正した。数分後、「しまなみ」は波を割り、およそ1日ぶりに青空の元に姿を現した。
「艦内隔壁、全て開放。両舷乗艦口開け。全乗組員、エンブレム等抹消行動に移れ。」
そう言うと、両舷の乗艦口が開き、技術科や船務科、そしてその他の人員が塗料と自分の身体の倍はあろうかというペイントローラーを持ち、両舷のエンブレムを塗り潰しにかかった。そして、艦内でもエンブレムが描かれている廊下などではこちらでも塗り潰し作業が行われていた。そして数十分後、艦内、そして艦側面にある全てのエンブレムが塗り潰され、一つ、また一つと本艦の所属を示すものがなくなっていく。
小西は、胸元の「日本国航宙自衛隊」と書かれたワッペンをじっと見つめた。…これも、引き剥がさなければならない。そう思うと心に来るものがあった。苦楽を共にしてきたワッペンとの別れを偲びつつ艦橋乗組員を見渡した。皆、新たな決意を胸にテキパキと作業している。皆、過去を振り払って進んでいる。俺も、過去を見るのはやめよう。そう思い小西は胸元のワッペンを勢いよく引きちぎった。手元には胸にあったはずであるワッペンが握られていた。…これで、俺たちは本当に日本から、地球から存在が無くなったことになる。小西はいろいろな思いが込み上げてきて、少し上を向いた。やがて少し気持ちが落ち着いた小西は阿部と桐原、杉内に向かって
「阿部、『こくちょう』を収容。桐原、収容完了次第、第三戦速で陸地へ向け発進せよ。杉内、航行中は第一種戦闘配備を維持。対空、対潜、対水上警戒を厳とせよ。」
「『こくちょう』収容準備に入ります。左舷格納庫開け。『こくちょう』、本艦へ向け帰還します。」
「メインエンジン、及び補助エンジン、接続を切っていませんので、いつでも発進できます。」
「第一種戦闘配備了解。…砲雷科各位に告ぐ!総員、第一種戦闘配備!対空、対潜、対水上警戒を厳とせよ!」
阿部と桐原から報告が上がり、杉内が砲雷科に指示を出した。その様子に頷くと小西は正面の船窓の外へ視線を移した。…この世界を世界を救う為に戦闘に介入する選択をした、我々の選択に間違いがない事をどうか、神様。見守っていてください。そう祈っていると、虚空の一点がピカリと光った。それは、陸地を偵察していた小型偵察機「こくちょう」であった。だんだんその姿が大きくなっていったかと思うと、本艦の右舷を通り過ぎ、本艦の後方を大きく旋回して本艦の左舷に近づいた。そして、収容クレーンによって「こくちょう」はおよそ1日ぶりに母艦に帰還した。
「『こくちょう』、収容しました!左舷格納庫閉鎖確認!」
阿部からその報告を聞き、小西は桐原に視線を飛ばし、指示をする。
「桐原、メインエンジン及び補助エンジン接続、点火!『宇宙駆逐艦しまなみ』発進!」
「『しまなみ』発進!」
そう桐原が復唱するとエンジンノズルから火が吹き出す。
「進路051!第三戦速!」
「ヨーソロー!進路051!第三戦速!」
小西の指示を桐原が再び復唱し、艦を操る。
艦は水を切り裂いて進んだ。これから待ち受ける運命を知る事なく。