「情けなくて、俊に申し訳なくて。ずっと後悔してるの。俊は今でも私に優しい言葉をくれる。東京から800kmも離れてるのに、こんなに遠くにいるのに、心だけは近くにいようとしてくれる。それなのに私は、俊の気持ちに応えられてなくて、痛いの」

砕け散った好きの残骸は、私の掌から溢れてどこかへ行ってしまう。私は必死にとどめようとするんだけど、ものすごい速さで流れてしまう。
私は俊の気持ちを、私が砕いてしまった彼の「好き」を、時間をかけて拾い集めようと必死だった。
だからこそ、今まで蓮がどんなに私を見てくれていても、私を一番近くで撮ってくれていても、遠くに散った俊の想いの方にしか、気持ちが向かなかったのだ。そんな私の浅はかな感情を、蓮は見抜いていたんだ……。

「そっか」

蓮は私の話を聞いて、何を思ったのか残っていたジュースを一気に飲み干した。
よく見ると彼の額から一筋の汗が流れている。蓮はあまり汗をかかない人間だと思っていたので、額の上で光る水滴に、私は釘付けになってしまった。

「やっと、分かった。風間さんがずっと泣いてた理由。分かって、余計に撮りたいって思った。俺はその俊って男の子のことを何も知らんけど、風間さんが、全身全霊で叫んで心がむきだしになるくらい考えてるその人のこと、俺は純粋にすごいなって思う。……羨ましいやんか、って」

蓮がメガネを外し、制服の端で拭って再び掛け直した。額の汗が、メガネの縁に溜まっていたのだ。

「撮りたい。撮りたいよ風間さん。もっときみを知りたいし、もっと話してほしい。なあ、一緒につくろう? 日本一の映像を。俺と風間さんのむきだしの心をすべて詰め込んで。こんな小さな町で、四国の端っこで、俺たちは馬鹿みたいに悩みながら生きてるんだって、叫んでやろうよ。俺は楽しみになったんよ。風間さんの根っこの部分が見えて、がぜんやる気が湧いた!」

曇り空の晴れ間から差し込んだ光が、海の表面をきらきらと反射するように、蓮の瞳は大きな夢を前にして爛々と輝いていた。
私の、私の心の奥底に眠っていた後悔ややるせない気持ちを喰って、彼の夢は大きく膨れあがった。なんだそれ、と文句の一つでも言いたくなったが、それよりも蓮に、俊への悔恨の想いを肯定してもらえたことが嬉しかった。
私は私のままでいいと言われているような、気がした。

蓮は私に右手を差し出して、私はその手をとった。
それが私たちの青春の、始まりの合図だった。