「……風間さんが、好きや」

世界一美しい「好き」という言葉が、波の音に溶けて、私の胸に溶けて、大地を照らす日の光みたいにほの温かく、蓮との思い出を照らした。

蓮の、泣きそうなほど綺麗な表情が、私の目に焼きついた。
竜太刀岬みたいだった。
蓮はずっと、新しい土地で迷いそうになっている私のそばにいて、どっしりとただそこにいて、私の三年間を見守ってくれていた。竜太刀岬と同じ、私の高校生活の象徴みたいな存在だった。

「……ごめん。好きな人がいる、の」

だからこそ、私は蓮にちゃんと伝えなければならなかった。
ありがとう、とさよなら、を。
蓮がくれた大切な思い出を胸にしまって、私は新しい一歩を一人で、歩いていこうと誓ったのだ。

蓮の目が、また大きく見開かれる。そして、ゆっくりと瞬きをした。瞳の奥から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

「そうか……知ってたわ」

泣き笑いの表情を浮かべた蓮が、私に右手を差し出してくる。私はその手を握ってもいいのか少しの間迷ったけれど、波の音に背中を押されるようにして、そっと彼の手を握った。

「ありがとうな。俺たちは、同じ夢を見たパートナーやけん。風間さんのことは、ずっと忘れんよ」

繋いだ手から伝わる、蓮の体温を感じながら、私は空を仰ぎ見る。
空は、雲は、太陽は、私たちの不恰好な青春の終わりを、どんなふうに見てくれているのだろう。

「私も、忘れない。好きって言ってくれて、ありがとう。蓮がいなかったら、私はきっと迷子になってたから。だから本当に、感謝してます」

むきだしの私を撮りたいと言ってくれた蓮。私はずっと、自分みたいな根暗な人間なんて、誰からも必要とされていないのだと思っていた。
高知という東京から800kmも離れた土地に来て、友達もできずに青春時代が過ぎ去っていくのを待つだけなんだろうと。
でも、私の三年間をきらきら光る水面みたいに照らしてくれたのは、間違いなく蓮だ。私は蓮にたくさん頭を下げて、繋いでいた右手をゆっくりと離した。
そして、蓮に背を向けて高台の階段を一歩踏み出した。
私の未来への道を、進むために。