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夏が終わり、受験シーズンがやってくると教室の中は一気に受験モードへと切り替わった。それまで部活で活躍していたクラスメイトたちが、今度は机に齧り付くようにして勉強をしている様子を、私は嘘みたいに感じていた。かくいう私だって、みんなと同じように参考書と向き合っているのだから、ほんと、嘘みたい。

蓮とつくった映像をコンテストに応募したあと、俊にも約束通り動画を送った。
俊からはまだ感想はもらっていない。俊には俊なりのタイミングがあって、それは今じゃないと告げられているようだった。
蓮とはあれからなんとなく気まずくて会話すらできていない。

この間数学の質問をするために職員室に行くと、蓮が担任と話しているところをチラリと聞いた。蓮は大学受験をせず、就職するつもりらしい。担任はそんな蓮にしきりに進学することを勧めていたが、蓮は断固として頷かなかった。その横顔が笑っているようにさえ見えて、私は蓮が本気で映像の道を進もうとしているのだと分かった。

大学で机上の勉強をするよりも、現場に入って経験を積んだ方がええかと思ってて。

蓮が目を輝かせながら私に語りかける様子を、私は勝手に想像していた。
彼らしい決断だ。蓮は、自分の夢にまっすぐ向かって行く。高校入学前に、私を自分の夢に引き込んだ時みたいに、蓮の決断に迷いはない。私はそんな蓮の後ろ姿を追いかけていたのだ。

「私も……頑張らないとね」

がんばって。
がんばって、凛。

受験勉強に行き詰まった時、目を閉じて思い浮かべるのは俊の言葉だ。
私をここまで導いてくれた二人の男の子が、別々の角度から私の背中を押してくれる。受験勉強は孤独でつらいことが多いけれど、波にさらわれて挫けそうな心を、支えてくれているのは俊と蓮に違いなかった。


真冬の竜太刀岬は、より一層猛々しく荒れる海を私たち人間に容赦なく突きつける。できれば目を背けたい光景なのに、移動教室の途中、廊下の窓からどうしてか岬の方ばかり眺めてしまう。共通一次試験が終わり、いよいよ本命の大学の二次試験を目前に控えて、私は荒れる海を前に足がすくんでしまっていた。

「風間さん、元気?」

「え?」

背後から声をかけられて振り返ると、先月就職先を決めたはずの蓮が、私の方を見て片手を挙げていた。