なぜか、マユは毎年、雪の日の帰り道しか、ボクに嫌がらせをしない。卒業が迫った小学6年生の時もそうだった。
「ねえ、これ何?」
雪で濡れないように本をビニールの袋に入れて脇に抱えていたら、マユに後ろから強引に抜き取られた。
「何でもいいだろ」
「エッチな本じゃないの? しかも洋モノの」
「違う! 英語で書かれた、ただの図鑑だ」
「嘘つけ。ヒロシ。変態め」
さんざんボクを馬鹿にしたあと、マユは雪玉をボクに投げつける。そしてボクの大切な図鑑を雪の上に落として立ち去った。
山村留学は小学校の卒業とともに終わる。卒業後は父のいる名古屋の実家に戻ることが決まっていた。もう少し辛抱すればマユとはサヨナラだ、と自分に言い聞かせる。
相変わらず母はマユからボクを守ろうとしてくれない。ついに、ある日、母に歯向かってしまった。
「いつまで泣いてんの。もう、マユちゃんのことは忘れなさい」
「マユを許す母さんなんか、大嫌いだ!」
「ひーくん、そろそろ分かって」
「分かってる。言われんでもボクが普通やないことくらい、理解してる。マユはボクが障がい者やって馬鹿にしたいんだろ?」
「ひーくんが変わってるのは、障がいやなくて個性や。それにマユちゃんは悪い子じゃないの。もう、そっとしてあげて」
この年は暖冬で雪は例年より少なく、積もってもボクの足首くらいの高さにしかならなかった。しかし、卒業式まで、いよいよあと1ヶ月となった日、立田地区は久々に大雪に見舞われた。
吹雪の中、学校からの帰る途中、背後からボクは誰かに腕をつかまれる。振り向くと、マユが立ち尽くしていた。やられる、と体が先に反応して怯えてしまう。
この日は、晴れているのに雪がちらつくおかしな天気だった。雪化粧した山と青空のコントラストが美しい。
マユは顔を近づけてくる。
「あのさ、これ、あげる」
ピンクの包装紙に包まれたものを、マユはボクの胸に押し付けてきた。
降る雪の白さが背景にあるせいか、マユの頬の赤らめ具合が引き立っていた。こんな表情を見るのは初めてだ。
(バレンタインデーのチョコレート……か?)
「迷惑?」
「ボクのこと、馬鹿にしてるんじゃないの?」
「もうお別れ。私のこと忘れるんよ」
そして、マユは雪景色の中に溶け込むように消えて行った。走り去ったというより、真っ白な雪と同化して消えたような、不思議な光景だった。そして、今までにない痛みが胸を襲った。
「ねえ、これ何?」
雪で濡れないように本をビニールの袋に入れて脇に抱えていたら、マユに後ろから強引に抜き取られた。
「何でもいいだろ」
「エッチな本じゃないの? しかも洋モノの」
「違う! 英語で書かれた、ただの図鑑だ」
「嘘つけ。ヒロシ。変態め」
さんざんボクを馬鹿にしたあと、マユは雪玉をボクに投げつける。そしてボクの大切な図鑑を雪の上に落として立ち去った。
山村留学は小学校の卒業とともに終わる。卒業後は父のいる名古屋の実家に戻ることが決まっていた。もう少し辛抱すればマユとはサヨナラだ、と自分に言い聞かせる。
相変わらず母はマユからボクを守ろうとしてくれない。ついに、ある日、母に歯向かってしまった。
「いつまで泣いてんの。もう、マユちゃんのことは忘れなさい」
「マユを許す母さんなんか、大嫌いだ!」
「ひーくん、そろそろ分かって」
「分かってる。言われんでもボクが普通やないことくらい、理解してる。マユはボクが障がい者やって馬鹿にしたいんだろ?」
「ひーくんが変わってるのは、障がいやなくて個性や。それにマユちゃんは悪い子じゃないの。もう、そっとしてあげて」
この年は暖冬で雪は例年より少なく、積もってもボクの足首くらいの高さにしかならなかった。しかし、卒業式まで、いよいよあと1ヶ月となった日、立田地区は久々に大雪に見舞われた。
吹雪の中、学校からの帰る途中、背後からボクは誰かに腕をつかまれる。振り向くと、マユが立ち尽くしていた。やられる、と体が先に反応して怯えてしまう。
この日は、晴れているのに雪がちらつくおかしな天気だった。雪化粧した山と青空のコントラストが美しい。
マユは顔を近づけてくる。
「あのさ、これ、あげる」
ピンクの包装紙に包まれたものを、マユはボクの胸に押し付けてきた。
降る雪の白さが背景にあるせいか、マユの頬の赤らめ具合が引き立っていた。こんな表情を見るのは初めてだ。
(バレンタインデーのチョコレート……か?)
「迷惑?」
「ボクのこと、馬鹿にしてるんじゃないの?」
「もうお別れ。私のこと忘れるんよ」
そして、マユは雪景色の中に溶け込むように消えて行った。走り去ったというより、真っ白な雪と同化して消えたような、不思議な光景だった。そして、今までにない痛みが胸を襲った。