ーー俺、今日まで一体何してたんだろう。
交際経験ゼロのサヤが毎日不器用な恋をぶつけてくれたのに、結局何もしてあげれないまま。
『好きだ』のひとことさえ言ってあげてないし、両想いになれると信じて一人でバカみたいに浮かれてただけ。
愛されている自信だけがついて有頂天になっていただけ。
颯斗は途方に暮れながら手紙を再びちゃぶ台に置いてダンボールを開けて中身を取り出した。
リモコンに電池を入れた後、テレビ台の上に本体を乗せて、背面コードを繋ぎ合わせてコンセントを入れた後、ケーブルが巻いてある銀色の針金のタイを左薬指へ巻いて、手をかざしながら沙耶香を思い描いた。
「本当はサヤの指にこうやって指輪をはめて『本物の彼女になって欲しい』って告白するつもりだった。そしたら、初めて笑顔が見れるんじゃないかって思ってたのに……。くっそぉ!」
颯斗は気持ちが荒れるばかりに床に拳を叩きつけるが、たまたま手元にあったテレビリモコンに当たって電源が点いた。
ぼーっとして整理が出来ない気持ちと戦っていたが、テレビの時計が13時27分になったと同時にニュース番組に切り替わる。
『午後のニュースです。田所ホールディングスのご子息で俳優の窪田瞬さんとゼネコン大手 黒崎建設のご息女 黒崎沙耶香さんの結婚式がまもなく行われます。ホテル前から中継です。斉藤さ〜ん』
『はいっ! 斉藤です。間もなくこちらの会場で窪田瞬さんと黒崎沙耶香さんの結婚式が行われます。美男美女と大変素敵なお二方ですよね~。三時間前に会場入りしたお二方の映像がこちらになります。では、ご覧下さい』
俺は先日スマホで目にした窪田瞬のニュースが頭に残っていたせいか、ふとテレビに目が向いた。
すると、そこには……。
白いスーツ姿の暗い表情をしたメガネ無しのサヤが、側近と共にホテルの入り口へ向かっている様子が放送されていた。
一瞬、我が目を疑った。
「ええっ! サヤ?! 何でそんな所に……」
テレビの縁を鷲掴みにして食い入るようにテロップを見てみると、そこには黒崎沙耶香という名前が表示されている。
サヤの本名は黒崎沙耶香……?
黒崎……。
黒崎…………。
もしかして、サヤは黒崎建設のご令嬢?
そう思ったのも束の間。
画面右上部に流してテロップを見てみると……。
『窪田瞬さん、黒崎沙耶香さん。ご結婚おめでとう!』
俺は結婚の二文字を見て信じられない気持ちに包まれると、自宅に戻るまで天国だった気分は一気に奈落の底へと突き落とされた。