場所は、とある人物の自宅の三十畳ほどのダイニング。
ワインレッドのカーペットに木製の腰壁付きの白い壁紙。
天井にはクリスタルのシャンデリアがぶら下がっている。
薄暗い室内。
部屋中央に設置されている全長六メートルの高級イタリア家具の長テーブルには、複数個のフラワーアレジメントと、等間隔に並べられた小さなグラスに入った七つのキャンドルの炎がゆらゆらと躍る。
「失礼致します。本日のメインディッシュの黒毛和牛フィレ肉のポワレでございます」
「ありがとう」
一人前のフランス料理がメイドの手からテーブルへ。
後に並ぶメイドが次いでグラスに赤ワインを注ごうとすると、ある人物はグラス上部にさっと手を添えた。
「お代わりはもういい」
「かしこまりました、旦那様」
メイドは一礼してからワインボトルをテーブル右前方に置き、壁側に三名待機している使用人と肩を揃える。
主人は残りの赤ワインをグイッと飲み干してグラスを奥へスライドさせた。
「失礼致します」
扉の奥から現れた秘書は丁寧に一礼すると、主人の隣からタブレット端末を渡した。
「旦那様、本日分のご報告になります」
「うむ」
主人はタブレットを受け取ると、指でスライドさせて動画ファイルをタップして内容を確認。
本日撮影された動画が始まると、画面を眺めながら言った。
「今日から調査Bを開始してくれ。調査Aも引き続き頼む」
「かしこまりました。担当の者に伝えておきます」
「ご苦労様。もう下がってよい」
「それでは失礼致します」
秘書は頭を深々と下げて退席。
主人は椅子に深く腰をかけたまま、担当者に任せた最新の調査内容を目に焼きつけていった。