沙耶香はブライダルエステを終えてからベンツでアパート付近まで送ってもらった。
車を降りると、菅と右京と左京の三人は車の前に立ち並ぶ。
沙耶香は三人に振り返ると、最近心の中で滞っていたある悩みを打ち明けた。
「実はここだけの話ですが、人に監視されているような気がするんです」
三人は沙耶香からの予想外の暴露に戸惑いの色を隠せない。
右京「ふごごっ、ふぬふぬんぐ(監視され始めたのは、いつ頃からでいらっしゃいますか?)」
沙耶香「わかりません。実際相手を見た訳ではないのですが、ほぼ毎日のように視線を感じると言うか…」
左京「警護に入りましょうか?」
沙耶香「いえ。このまま様子を見たいと思います」
菅「お嬢様、何かあってからでは手遅れになります。ここは、我々三人に任せて……」
沙耶香「菅、心配してくれてありがとうございます。でも、沙耶香は残りの九日間を自力で乗り越えていきたいんです。だから、警護は要りません」
沙耶香はそう言うと、三人の元を離れてトボトボとした足取りでアパートへ向かった。
鍵開けて部屋に入ると先に颯斗が帰宅していた。
「おかえり〜。あれ、またスーツ着てるけど何処かに出掛けたの?」
「少し用事があって」
靴を脱いで部屋に上がって石鹸で手をゴシゴシ洗う。
だが、颯斗との平和な日々とは対照的に次々と思い浮かび上がってくるのは差し迫ってくる未来像。
心無くいびる姑に、自由奔放な婚約者。
間も無く籠の中に戻る自分。
意思や自由が奪われる生活。
無理にでも切り捨てなきゃいけない恋心。