「もうすぐ嫁になるあんたが他の男と暮らしてるって世間に知れたら、俺にどれだけ迷惑かかると思う?」
「……そんなのお互い様じゃないですか。あなたは婚約してからの半年間で何人の彼女をお作りになったんですか? 沙耶香とのデートを何度すっぽかしたと思ってるんですか。両親に何度虚偽報告をしたかわかりますか」
彼に一切興味はなくても、この半年間婚約者としての務めを果たしてきた。
にも拘らず、彼は我が道を行くばかりで簡単に気持ちを踏みにじってくる。
「俺は型にはまった生き方が嫌でね。だから俳優業を選んだの。でも、あんたが問題を起こして結婚が破談になっても黒崎建設にはデメリットしかないよ」
「……!」
「別にあんたのところと業務提携をしなくても、すまいる寿司の全店リフォームは他業者に頼めばいいだけの話だし」
「相変わらず最低ですね。沙耶香はあなたがこんなロクデナシで女ったらしと知ってたら最初から結婚を断ってました。婚約してから半年間、あなたに振り回されっぱなしにされたから、すっかり嘘つきになりました。でも、会社や家族を思って我慢してるだけです」
「はぁ? 相変わらず生意気なロボットだな。……ま、今日はそれをわざわざ言いに来た訳じゃない」
「じゃあ、何ですか」
沙耶香が反抗的な目でそう言った瞬間……。
瞬は沙耶香の身体と頭と押さえて首元に噛み付くように吸い付いた。
数秒間、沙耶香の首にちぎれるような痛みが走る。
「いっ痛っ。ちょ……ちょっと、やめてください!」
ドンっ……
沙耶香が両手に力を込めて身体を押し離すが、首に痛みがじんじんと残る。
「いきなり何するんですか!」
「キスマークのプレゼント。俺のプライドを散々傷付けた罰としてね。こう見えても結構ナイーブなんだよね」
「……っ!」
「じゃ、帰るわ。ガス抜きも出来たし。彼氏への言い訳でもゆっくり考えててね〜。じゃあ、まったね〜」
瞬は嫌味ったらしくそう言って手を振ると、BMWに乗り込んで走らせた。
彼は相変わらず最低男だ。
沙耶香は眉間に皺を寄せて不機嫌のままアパートに戻ろうとするが……。
また、いつものような視線を感じて辺りを見回す。
右……、左……。
しかし、人の姿は見当たらず気のせいかと思ってそのままアパートに戻った。