それから数時間後。

サヤにはバイトを休ませて深夜に帰宅すると、彼女は玄関を開けてすぐに後ろに回って目隠しをした。



「えっ、なに? 何かあるの?」

「サヤがいいと言うまで目隠ししますよ。ズルして指の隙間から見ちゃダメですからね。しっかり目をつぶってて下さいね」


「わかったわかった」



沙耶香はパチっと照明の電源を切って部屋中央に足を進めると、パッと両手を離した。



「もう目を開けていいですよ」



合図と共に目を開くと……。
夜空を連想させる蛍光色の星型の切り抜きの紙が天井に満遍なく貼り付けられていた。

所々ほんのりと輝いて見える星は、まるで先日二人で一緒に見た満天の星空のように……。

俺は思わぬサプライズに瞳が輝いた。



「すげぇ、天井に星がこんなに沢山……。これ、サヤが一人で作ったの?」

「はい。仕事をお休みして時間がたっぷりあったので、お金がかからないプレゼントを考えてみました。颯斗さんが今朝まで看病してくれたお礼です」


「プラネタリウムみたい。しかも天気関係なく毎晩見れるし」

「窓際の野菜の葉がジャングルっぽく見えるから、夜寝る時は外で横になっている気分を味わえますよ」


「部屋にゴキブリ出るし?」

「……それ、言わないで下さいよ。最近忘れてたのに……」



サヤはそう言い、ムッスリとした目を向けた。



「でも、どうしてプラネタリウムを作ろうと思ったの?」

「1分1秒でも長く颯斗さんと同じ景色を見ていたいから。サヤにとっては毎日が記念日です」



彼女は意外にロマンチスト。
星型に紙を切ったり、小さな身長で台に乗って天井に紙を貼り付けたり。
二人の時間を大切にしようと思ってくれているだけで心がくすぐられていく。

俺は天井のある星座に目が止まると、指をさして聞いた。



「あれは夏の大三角形?」

「はい。わし座のアルタイルが颯斗さんで、はくちょう座のデネブが私です。デネブはアルタイルを追いかけ続けたから天の川の上で再び出会えたんです。だから、デネブは毎日幸せです」







こうやって二週間近く一緒に暮らしていても、まだサヤの事をよく知らない。

彼女の口から言える事と言えない事。
その狭間で揺れ動かされている俺の心。
毎日小さな変化に心躍らされて、彼女の存在感が日々増していく。



契約終了まで残り十五日。


いま一つだけ思うのは、契約終了後も俺の傍にいて欲しいという事。