割れたお皿を入れたゴミ袋をベランダに持って行き、再びリビングの床に腰を下ろすと、たまたま目を向けたテレビ台の下の隙間に本らしきものを発見した。
何の本かと思って手に取り、本タイトルを確認してみると……。
こっ、これは……。
「ねぇ、テレビ台の下に置いてある本はサヤの私物だよね」
「えっ?」
沙耶香はふきんで台所の水回りの水滴を拭きながら振り返る。
颯斗は一ページ目を開くなりこう言った。
「『彼氏には恥ずかしくて言えない! 恋人100選〜私達が本気で彼氏に望んでいること〜』っていう本だけど」
「うああぁあ!」
サヤは赤面したまま、まるでビーチフラッグをしているかのように本を奪い取ると、正座をしたまま恥ずかしそうに本を胸の中に抱えた。
「見ちゃダメです……」
その姿があまりにも可愛かったから思わず吹き出した。
「あっはっは。俺が仕事行ってる時にそんな本を読んでたの?」
「……いけませんか」
「別に自由だけど。一ページ目の《ほっぺにキス》って可愛過ぎてさ。中学生の愛読書みたいで……」
颯斗が意地悪くケタケタと笑っていると、沙耶香はムスッとした目で見る。
「じゃあ、実践……してくれますか?」
「えっ…」
「サヤは颯斗さんからほっぺにキス……して欲しいです。でも、感情のこもっていないキスは要りません。サヤが頑張ってるなって思った時に颯斗さんの意思でしてもらいたいです」
颯斗は目と目を合わせてそう言われた瞬間、顔からボンッと火が吹き出しそうになった。
しおらしいというか。
純真無垢というか。
可愛いところを満遍なく寄せ集めたアソートセットのような人と言うか……。
「……っ! その、何て言うか…」
「はい……」
「わ……わかった」
俺はバカだ。
ただの契約彼氏にも拘らず、彼女の可愛らしさに自然と吸い寄せられていく。