ーー翌日。
颯斗はアルバイトが丸一日休みで沙耶香とデートの約束をしているが、沙耶香はスースーと寝息を立てながら眠っていて起きる気配が感じられない。
慣れない生活に加えてのアルバイト。
よっぽど疲れが溜まってるんだなぁ〜と思い、沙耶香を起こさないままキッチンに立って、おにぎり五個とお弁当用のおかずと朝食作りを始めた。
沙耶香は漂ってきた味噌汁の香りで目を覚ましてガバっと身体を起こす。
「寝坊しました!」
「あはは、寝起きの一声がそれかよ」
「だって、今日は颯斗さんと大切なデートの日なのに……」
「そんなに焦らなくても時間はたっぷりあるよ」
颯斗はケタケタ笑いながら味噌汁を配膳する。
沙耶香は布団をたたむと、配膳準備に取りかかった。
食事と身支度を終えてから、二人は軽装で外出した。
行き着いたのは、徒歩30分ほどの距離にある川辺。
雲の隙間から日差しが照りつけて蒸し暑さで服が身にまとわりつく。
蝉の大合唱も暑さの要因に。
颯斗は平地で雑草が生えている部分に荷物を置くと、リュックの中からバドミントンのラケットとシャトルを出して沙耶香に差し出した。
「今日のデートって……、もしかして川辺でバドミントンですか?」
「どんなデートを想像してたの?」
「美術館や料亭やクルージングを想像してました」
「は? そんな金あるかよ。いい思い出というものは、相手とどう過ごすかによって決まると思うよ。だから身体を動かして遊ぶ。ほら、いくぞ〜」
「ま、待って下さい〜。サヤが居る方向は向かい風なんですけど……」
「言い訳ご無用〜」
颯斗は沙耶香の笑顔を生み出す方法の一つとしてスポーツを選んだが、期待通りの笑顔はなかなか生まれない。