居酒屋バイトの帰り道。
ムワッと湿った夜風が二人の服をはためかせている。

颯斗は静寂に包まれている住宅街で満天の星空に指をさして言った。



「サヤ、空を見てごらん。夏の大三角形が見えるのがわかる?」

「デネブ、ベガ、アルタイルの事ですか」


「星に詳しいの?」

「小学生の頃に天文学クラブに所属していたんです。颯斗さんは星に興味がありますか?」


「興味があると言うより……、普段この時間に帰宅しているから自然と目に入ってくるんだよね」

「サヤには、星以上に颯斗さんが輝いて見えますよ。颯斗さんはいつも一等星です」


「えっ、俺の何処が?」

「秘密です!」



サヤはそう言うと、照れくささを隠すかのように、くるりと背中を向けて走って行った。
俺は後を追い、サヤの頭にフードを被せて捕まえたよと合図するかのように頭をポンポンした。





ーー午前2時20分。

沙耶香は布団からスクっと身体を起こして颯斗の寝静まった顔を確認。

颯斗を起こさぬようにそっと布団を出てから足元付近のスーツケースを開いてノートを取り出す。
ちゃぶ台の上に広げると、スマホのライトの明かりを頼りに今日一日の出来事を思い浮かべながらボールペンを滑らせた。



毎日が幸せだから、一日一日が一生分の早送りのように目まぐるしいスピードで過ぎ去っていく。
一生分の恋は1秒でも無駄に出来ないし、人に遠慮なんてしない。
彼の優しさに触れる度に積み重なっていく恋心。

でも、情を注げば注ぐほど苦しくなっていくのは何故だろう。


残り十九日。

私はこの恋心を胸にしまったまま墓場に持って行くだろう。