場所は勤務先のコンビニ。
颯斗は昼の混雑のピークが過ぎた時間に店内のモップがけをしていると、背後で商品の陳列を行っている谷中は背中を向けたまま口を開いた。
「鈴木さん。その後どうですか? 100万円の彼女と一緒に暮らし始めたんでしょ」
「……何だかさ、凄い不器用な子なんだよね。頑固な一面があると思ったら、従順な一面もあって。一度も笑顔を見た事がないんだけど、言葉のひとつひとつに表情以上の感情がこもってると言うか……」
颯斗はモップを杖のように立てて両手を乗せながらボーッと沙耶香を思い描いた。
「彼女はどうして笑わないんですかね」
「どうしてだろうな。出会った頃からロボットのようにポーカーフェイスなんだよね。笑っちゃいけない事情でもあるのかな」
「もしかしたら、トラウマみたいなものを抱えているとか?」
「トラウマねぇ……。でも、契約期間が終わる前に笑わせてあげたいなと思っているんだよねぇ」
丸一週間、同棲してきたからこそ気になる点が浮かび上がってくる。
しかも、知らない間にしっかり情が芽生えてるし。
契約上とはいえ、俺は恋人。
残り三週間、一度も笑顔を見せない彼女に恋人として何を残してあげられるだろうか。