俺はサヤの願いを素直に聞き入れて、近所の書店で立ち読みをして時間をつぶした1時間後、鼻歌混じりで帰宅した。
インターフォンを押す手に期待を込めたのはいつ以来だろうか。
ピンポーン……
すると、彼女は2秒ほどで玄関に出迎えた。
「颯斗さん、おかえりなさい」
「ただいま〜。夕飯出来た?」
「もちろんです! 見て下さい。上手に出来ましたか?」
サヤはちゃぶ台に手を向けて、並んでいる料理を自慢げに見せた。
そこには、青椒肉絲、回鍋肉、酢豚、炒飯、エビのチリソースと、プロ顔負けの中華料理が並んでいる。
彼女の手料理を素直に喜びたかった。
だが、料理を見た途端ふと疑問が浮かび上がった。
何故なら皿の上には冷蔵庫や冷凍庫に入っていないはずの食材が並んでいるのだから。
「あの……さ、酢豚の豚はどこで入手したか教えてくれる?」
「(ギクッ)え…えっと、あ……大家さんに頂きました」
しどろもどろな返答に違和感があった。
しかし、彼女を信じてちゃぶ台の前に腰を下ろす。
ところが着地した途端、足元でカサッと何かが擦れるような音がした。
何かと思って足元に手を伸ばして拾い上げて見てみると、そこにはデリバリーの領収書が……。
それを見た途端、俺の期待熱は一瞬で冷めてしまい呆れ眼で言った。
「……出せ」
「なっ、何をですか?」
「料理をサボってデリバリーに頼っただろ。無駄遣いしないように暫く現金とクレジットカードを預かってやるから出せ!」
「電子マネーで決済しました」
「アホかっ! 問題は決済方法じゃない! 料理が出来るって言ってたから任せたのに、どうして手作りしなかったの?」
「正直に言うと料理が出来ません」
「はぁ………、なら最初から料理が出来ないって言えよ。変な見栄を張る必要がないだろ。……いいか、もう二度とデリバリーはなしな。料理は美味くても不味くても愛情だよ。今度はサヤの手作り料理を食わしてな」
颯斗はため息混じりでそう言うと、沙耶香の髪をくしゃくしゃ撫でた。
18時半になり、颯斗は居酒屋バイトへ向かった。
沙耶香は先に敷いてもらった布団横のちゃぶ台で、アパートに来る直前に購入したノートに今日一日の出来事を記載する。
「嘘をついてちょっと怒られちゃったけど……。私の髪……触れてくれた。最高に幸せ。同棲生活、残り二十六日」