沙耶香「キャアアアア!」
颯斗と右京と左京の三人は、突然悲鳴を上げた沙耶香へ目を向けた。
すると、窓際の野菜を見つめていた沙耶香の足がガクガクと震え始めた。
顔色は冴ない。
「この部屋には虫も放し飼いですか。ジャングル風のインテリアの完成度が高い……」
「アホか。ゴキブリが紛れ込んだだけ」
颯斗は沙耶香の足元のゴキブリをティッシュの箱で倒してつまんでゴミ箱にポイと捨てた後、玄関扉のすぐ右側に設置されている台所のシンクで手を洗いながら背中越しに言った。
「昨日さ、俺の事をリサーチしたって言ってたけど、どれくらい調べてきたの?」
「右京、資料を」
「んぐぐっ(かしこまりました)」
右京は手元のビジネスバッグから一冊の赤いファイルを取り出して沙耶香に渡す。
沙耶香はメガネを人差し指でクイっと正してから読み上げ始めた。
「名前は鈴木颯斗。年齢は二十二歳。独身。誕生日は六月三日。血液型はAB型。趣味は貧乏」
「おいおい、最後のところ間違ってんぞー」
「十六歳でアルバイト生活を余儀なくされた。給料は実家の生活費に充てられる。青春時代のほとんどは学校かアルバイト」
「その資料すげえな。合ってる合ってる」
颯斗はタオルで手を拭いた後、ちゃぶ台の上にハンカチを敷いて座る沙耶香の正面に腰を下ろした。
「貧乏という理由一つで高校卒業を機に実家を追い出された。就職を試みたが27社中全敗。都心部に転居してからも就職活動を行うが、内定をもらうどころか面接までたどり着けない」
「うんうん、そうそう」
「現在まで四人の彼女と付き合い、最近の彼女は三ヶ月前に別れたばかり」
「……それはかなり最新情報だな」
「好きな女の子のタイプは巨乳。顔を見る前に乳を先に見る癖がある」
「その情報は確実にコンビニ店長だな。簡単に情報を売りやがって……」
「颯斗さん、そんなにいやらしい目で私の胸を見ないで下さい」