沙耶香は冷房がガンガンに効いている店内で額に冷や汗を滲ませながら客がレジから離れていく様子を黙って見届けると、背後に二人を引き連れながら、一歩一歩と颯斗がいるレジ前へと向かった。
ブルー&イエローのストライプの清潔感溢れるユニフォームの左胸には、鈴木というリサーチ済みのネームプレートが。
彼の名前は鈴木 颯斗。
二十二歳
黒髪は目にかかりそうなくらい長い前髪で襟足は短い。
顔は中の上。
二重のタレ目で薄い唇以外、特にこれといった特徴はない。
しかし、笑顔は誰にも負けないくらい一等級。
颯斗は自動ドアから真っ直ぐ歩いてきた沙耶香と目が合うと、まるで光を鏡で反射させたかのような眩しい笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
自分だけに向けられたスマイルと爽やかな声が、沙耶香の緊張感をより一層高めていた。
ドックン…… ドックン……
身体から心臓が逃げ出しそうなほど胸が高鳴り、全身の血が沸騰寸前に。
沙耶香はゴクリと息を飲み、まるで生まれたての子鹿のように不自然な足取りのままレジ前に立った。
頭のてっぺんから足のつま先まで全身ブランド尽くしでセレブ感たっぷりの沙耶香と。
全身黒尽くめスーツ姿でサングラスをかけているボディーガードの右京と左京。
三人揃ってレジカウンター越しに揃い立つと威圧感は半端ない。
まるでスパイ映画に出てくる女ボスと側近のよう。
さすがの颯斗も沙耶香達の異様な雰囲気に耐えきれず、引きつった顔のまま一歩だけ後ずさった。