「右京さん、銃で撃つのは勘弁して下さい。俺はまだ死にたくない!」
俺は恐怖で唇を震わせながら、両手を前に突き出した。
情けない事に気が動転するあまり声がひっくり返ってしまったが……。
カサカサ……
ポリっ……ポリっ……
「ん……?」
右京さんの内ポケットから出てきたのは、なんと銃ではなくて一枚の板チョコレート。
キラキラと銀色に輝いていた物の正体はチョコレートの包み紙で、銀紙をくるりと剥いてチョコレートをパクりとかじっていく。
俺はキョトンとした目のまま震えた指先を彼に向けた。
「もしかして、内ポケットに入っていた銀色の物体は元々銃じゃなかったの?」
すると、沙耶香は平然とした表情でサラリと答えた。
「日本で銃を所持出来るわけないじゃないですか。右京は興奮した時にチョコレートを食べて気持ちを落ち着かせたりするんです」
「へっ? 俺はてっきり銃で撃たれるかと……」
「颯斗さんったら想像力が豊かなんですね。右京は以前勤務中にチョコレートを食べたのがバレて、父親から禁語令が出されてしまって……。あ! そろそろ解除日だったような」
俺は右京さんと出会ってからよくわからない言葉で会話していたから、てっきり喋れないのかと思っていた。
しかも、禁語令が出されてしまった原因が勤務中のチョコレート。
更に、訳わからない言葉が何故か家族間でちゃんと伝わってる意味がわからない。
右京「誰も喋れないとは言ってません。ペナルティとして旦那様からの命令に従っただけです」
彼はチョコレートをガシガシとかじりながら左京さんと同じ声でそう言った。
思わず言葉を失った。
俺は今日まで一体何に怯えていたのだろう……。
右京さんが機嫌を損ねた後、内ポケットから銀色のものが光る度に「撃つな」と言って防御力を全開にしていた。
その間、誰も勘違いを指摘してくれなかったから、いま思えば一人で恥晒しをしていただけ。
「あっ、そう。ははっ……ははっ……」
俺は100万円を持って現れた沙耶香と初めて会った時は相当変わり者だなと思っていたけど、就いているボディーガードも相当変わり者だと痛感した。