「…すごい。すごく、上手な絵を描いてるなって、見た時に思ったんです。それと、植物の愛情も。けど、その…。思っている以上に、すごく感動したっていうか…」
「ありがとう!もしよかったら、また見に来てください。俺は、ここ最近ずっとここで、この時間に描いているので。まぁ、今日はあれだったけどね」
臆病なはずの私なのに、なぜかどんどん言葉が出てくる。心が弾むように、わくわくが速度を上げて、全身を駆け巡っている。
「み、見せてほしいです!明日から、迷惑じゃなければ…」
「迷惑なんかじゃないよ!俺の絵を救ってくれたお礼。ところで、あなたって…」
「あっ、そうだった。遅れちゃったけど、高一の八木(やぎ)仄花(ほのか)です」
「俺も遅れちゃったけど、大学一年の素原(すはら)灯輝(あき)です。よろしくね」
大学、一年生…。でも、確かに素原さんの優しさや温かな態度は、私と対等ですごく喋りやすい。
「ねえ、その年頃の女の子って、どう呼べばいいのかなぁ?なんかねー、前にバイト先で話した後輩の女の子が、ちゃん付けはちょっと…って言ってきたの。もう俺はそのバイト辞めたし、そんな年頃の女の子と関わるなんてないと思ってたからさぁ、今になってなんか後悔してる」
「いや、私はそういうの気にならないので、好きに呼んでもらって」
「そう?じゃあ仄花ちゃんで。俺も、呼び捨てでも何でも」
「そ、それはさすがに無理です!!そんな!!灯輝さんで!!」
灯輝さんは、ぶんぶんと首を振り続ける私を見て、ふははっ、と笑っていた。
その後、私は春花にそのことを伝えるため、駆け足で家に帰った。途中でスキップを交えながら、空になりかけたアイスティーを揺らし、オレンジ色と紺色が混ざる空の下を、リズミカルに駆けた。その時は、メガネを外した。
「仄花、絶対その人、あの桜のこと知ってるよ!いけいけー!!」
帰宅し、そのことを春花に伝えると、そう言われた。
その夜は、窓越しに見える星がキラキラと、いつもよりも輝いていた。勉強やカナのことで生まれる疲れやストレスが、今日はあまり感じない。
明日から、私の日常が、ちょっぴり灯輝さんに彩られる。
そう思うだけで、あの日の桜の香りがしてくる気がした。