「仄花!」
「な、何!?」
次の日の朝。春花にこう言われた。
「絶対、見つけてきてよね!!私が仄花だったら、もう今すぐ見つけてるから!!がんばれよ!!」
いやぁ、さすがにそんないきなりは無理です、春花先輩。そんなふざけたことを言いつつ、なんとなくの決心はついている気がする。
「…がんばってみるよ。行動しなきゃ変わらない、でしょ」
「覚えてるじゃん。勝手に作った合言葉」
じゃーね、と家を出る。少し暖かい風が、私の心にまとわりつく。ほんのりと、明かりがともるような感覚がした。

「さっすが、八木ちゃん!やっぱ頭いいんだよぉ!」
授業中のいじりだって。
「ねえ、今日の課題無理なんだけど。終わってるわ、八木ちゃん教えてー?」
人任せにする嫌がらせ、ほどでもない関わりだって。
「カナ、最近やけに八木さんに話しかけるよね」
「えー、そうかな?全然そんなことないんじゃない?」
私の話題で話す女子軍だって。
全然、気にならない。
なんでなのかわからないけれど、自分のやりたいことに没頭できている気がする。
でも、やけにカナの視線を感じる。気のせいだと思う。
「ふぅー…」
私は、電車を降りて、いつもの道を歩いていた。少し飲み物を買って休みたいと思い、公園に行く。
自販機からガコン、と音を立てて落ちてきたのは、ペットボトルのアイスティー百五十円。
きっとカナは、町中のコーヒーショップでフラペチーノとやらを私の倍の値段で飲んでいるのだろう。友達との会話を弾ませて。
まあ、私はこのアイスティーと妹が生きがい、と言ってもいいくらいなのだから。自信を持って言います。私は百五十円のアイスティーが好きです。きっとこの飲み物を超えるものは、私の中でありません。以上。
そんなアイスティーの香りが、口の中で舞い踊っている。すると、桜の人を思い出す。
「せっかくだし、公園見回ってみるか」
そんな独り言を言い、公園の中を散策することにした。
いつぶりだろう。きっと、春花が小学校低学年の時以来だと思う。
小さな子供を連れた親が、もう帰ろうと言っている。だが、子供は泣きわめき、やだやだ、もっと遊ぶと言って、大声を出している。こんなことが、春花にもあったかな。
すると、一つの木が、公園の中央に植わっているのを見つける。あれ、確か桜なんだよな。周りに、あの桜の人がいないか見てみる。
「…いないよなぁ、さすがに」
そう言ったとたん、きれいな絵を描く男性を見つけた。
私は、その人に話しかけようとした。だが、やはり勇気が湧かない。
『行動しなきゃ変わらない』
そうだ。桜の人じゃなくたって、話しかけたら、きっとその桜のことがわかってくるかもしれない。
あんなに愛しそうに植物の絵を描く人なら、きっと知っている。