「…仄花ちゃん、成長したよね」
「え、急に?何でですか、灯輝さんも進級したのに」
そうだけど、と言って、灯輝さんが笑顔でこちらを向いた。
「…最初は臆病だったけど、もう今は元気いっぱいなんだもん」
そういえば、私と灯輝さんが出会った時。灯輝さんはうたた寝をしていて、危なかったところを私が助けたのだった。
きっと、灯輝さんと出会ってから、私の「臆病」は段々と薄れていったのかもしれない。
「出会った日に、俺思っちゃったんだけど。正直、この子めちゃくちゃ内気そうなのに、なんでそんな一生懸命俺と話してくれてるんだろうなーって。でも毎日会ってるうちに、ただ臆病なだけじゃなくて、ちゃんとそれを克服しようとか、臆病なんてこと考えないでとにかくやるんだ!みたいな、ブレない軸がこの子はちゃんとあるって気づいた。だから、それを俺も応援したくなったんだよ。それで、今はもうすごい楽しそうにしてる。それが、俺、すごい嬉しくて」
私自身はあまり感じなかったけれど、確かに今は、言葉も行動も、詰まらせずはっきりできるようになっている気がする。そんな年下の成長を見て感動するものなのだろうか。
でも、私がそうなれたのは、理由があるのだから。今、言わなければ。
「…でも、私が臆病じゃなくなった理由は、灯輝さんですよ」
灯輝さんは、びっくりした顔で、
「え、俺?」
と言って、自分を指差した。
「そう。灯輝さんと、灯輝さんが描いた桜に、救われたんです。カナとまだ仲良くなくて、臆病な自分に悩んでいた時も、あの灯輝さんの桜を見つけたいからって思うと、自然と気持ちが前に向きました。結局、その桜は実在しなかったけど…。それでも、今もずっと心の支えというか、勇気をもらえる存在なんです」
灯輝さんは、いえいえ、と手を振っている。
「それに、灯輝さんも。私の相談とか、特に意味もないような話に付き合ってくれて、本当にありがとうございました」
「えぇ~っ、いやいや、なんか仄花ちゃんっ、かしこまったらだめ!子供の仄花ちゃんじゃなくなっちゃう!!」
「子供ですけど、もうそんな子供じゃないですよ」
とにかく、かしこまらなくていいからね!と、灯輝さんはふんわりとした柔らかい髪の毛を激しく揺らしながら言った。
久しぶりに会った灯輝さんは、前よりも優しい感じがした。